「のだめカンタービレ(1)」 |
先日、直木賞(第156回)を受賞された『蜜蜂と遠雷』という小説を読みました。
ピアノコンクールをめぐるお話で、文字だけなのに音が聞こえてくるような、
最後はコンサートホールにいるような感覚にすらさせてくれる本でした。
読んだ後に、普段はほとんど聴かないクラシック音楽が聞きたくなって、
漫画を手に取ります。「なんでだよ!」とつっこまれるのは重々承知。
本に出てきた曲を聴くのも良いのですが、普段聞き慣れていない音楽なので、恥ずかしながら
その曲を聴いても「こんな曲だったんだー」程度で、どこがすごかったなど分からないわけです。
それよりは、自分の想像の中で流れていた音楽にもっと浸りたいのです。
音楽を題材にした本や漫画は数多くありますが、ドラマや映画と比べると、
天才型というか天賦の才を持った人物を描くことが、より多い気がします。
絵や文字だけの方が、その「天才」部分に想像力を働かせてもらうことができるからです。
映像作品だと、実際に聴こえる音楽に説得力をださないといけないですから、
なかなか観るひと皆が納得する音楽が流すのは本当に難しいのでしょうね。
(その意味では『BECK(作:ハロルド作石)』の映画化は衝撃でした。天性のヴォーカリスト、
コユキの歌声だけ無音! すごい! でもせっかく映画なのに…?と思ってしまったのも事実)
前置きが長くなりましたが、
そうして今回私が手に取った漫画が『のだめカンタービレ』でした。
アニメ化や映画化された(調べたらゲームも作られていました!)、大人気タイトルです。
基本的にはギャグなのでしょうか、主人公“のだめ”が「ぎゃぼー」とか言っているのを
読んでいるだけも楽しめるエンターテインメント作品なのですが、
実はピアノやオーケストラなどの演奏シーンはかなりしっかり描かれています。
読んでいるとどんどん頭の中に音楽が流れてきて、音に浸ることができます。
あまり普段は聴かない私も、クラシック音楽がだんだん身近に感じられます。
演奏シーンが少し短く感じるのが残念なのですが、
そのぶん色々な曲が取り上げられているので、こんな曲もあるのかと楽しめます。
ピアノの演奏シーンをたっぷり楽しみたいなら『ピアノの森(作:一色まこと)』もおすすめ。
こちらは演奏にいくまでのエピソードもたっぷりあるので、なかなか演奏が始まらないのが
音に浸りたいときはネックですが、エピソードを選んで読めば良いかもしれません。
連載でずっと読んでいたのですが、未所有で読み直せなかったので今回は参考作品で。
『のだめカンタービレ』では、作中の曲を集めたCDも出ていたので買ってみたことも。
でも、やはり自分の中で流れた「のだめのピアノの音」にはかないませんでした。
ただ、調べたら「のだめオーケストラ」というオーケストラが出来ていたんですね。
生で演奏を体感できたら、また違ったかもしれません。
実際に聴くオーケストラは、耳だけではなく身体でその音を受け止められるので、
自分が想像した、どっぷりと浸れる音楽以上に、音に浸ることができます。
漫画を読んで、その曲をオーケストラの演奏で聴けるなんて幸せなことです。
やっぱり、そのときに曲を知っていると、よりその体験を楽しめるのでしょうね。
そうなるとやはり……と、 CDをかけて曲を聴いてみたくなってきました。
こうやって、漫画を読んでいるだけで音楽に浸ることができ、
ちょっとその曲をCDで聴いてみたくなり、実際にコンサートに出向きたくなる。
読む人の興味の幅を広げてくれる、そんな力が漫画にはあって、
この『のだめカンタービレ』で、クラシック音楽を身近に感じることができるようになった、
そんなひとが多いのではないでしょうか。
クラシックなんて聴かないよってひとは、ぜひこの漫画からクラシック体験してみてください。
普段から良く聴くよってひとは、音楽をどんな風に漫画で表現しているのか、感じてください。
どんなひとにも楽しめる音楽漫画、おすすめです。
推薦者 Nakamura aya |
ギャラリーカフェオーナー 大磯のギャラリーカフェ「At GALLERY N’CAFE」オーナー。画家・イラストレーターのたかしまてつをアシスタント、DTPデザイナーなどもしながら、趣味で愛猫ナロの姿を撮り続ける自称〈ナログラファー〉。最近増えた猫家族えんにもメロメロ。著書に、ブログ「あすナロにっき」をまとめたフォトエッセイ集『あすナロにっき』『あすナロびより』、幻冬舎の文芸誌「GINGER L。」で連載した猫エッセイ『tサンとナロ』。 |