「百鬼夜行抄」(1) |
正直なところ、怖いお話は苦手なのです。
ホラー映画や小説、ついでにお化け屋敷も……
映画やお化け屋敷は、人を驚かそうとする演出がありますが、
まんまとその演出に引っかかり、絶叫してしまいます。
小説は自分の中で思い切り怖く想像してしまうので、
だんだん読み進めることができなくなります。
あと、活字で読んでしまうと記憶に残り、なかなか忘れられないので、
いつまでも怖いイメージを引きずってしまうのも苦手です。
そんな私は怪談という今回のテーマにたいそう困ってしまったのですが、
なぜか漫画は多少怖くても読めることに気がつきました。
自分でページをめくるので、勝手に驚かされることもありませんし、
絵が描いてあるので、自分でイメージするよりも怖くなくなるようです。
とはいえ、怖ーい絵を描かれる漫画家さんの作品にはやはり手が出ませんが。
そうなってくると、妖怪や幽霊は出てくるけれど、
絵が可愛いとか、キレイな漫画が多くなります。
今回おすすめする『百鬼夜行抄』も絵がキレイな漫画です。
線がとても美しく幽玄で闇の暗さや怖さが線に潜んでいるかのよう。
異形の者が視える少年、飯島律が暮らすのは、
妖怪などの怪奇幻想小説を書いていた祖父がいなくなった家。
祖母と母、亡くなったはずの父の中に住みつく妖怪「青嵐」と、
使い魔になった二羽の妖魔と暮らしています。
基本的に一話完結で、大きな物語は少しずつ進んでいきます。
次から次へと律や家族の周りに集まってくる妖怪たちを祓ったり、
祖父の代まで時代をさかのぼったりしながら、
妖怪などが視える自分と折り合いをつけてゆきます。
出てくる妖怪は怖いのもそれほど怖くないものもいます。
人間に対して深い恨みをもっている妖怪もいますが、
亡くなった人が悪霊のようになってしまう時の方が怖い気がします。
妖怪や悪霊が出たから、それを退治して一件落着、
とはならないことも多く、人が何人も亡くなってしまっていても、
「不思議なこともあるものだね」「怖いね」で話が終わってしまうこともあります。
それでも、なんとなく救いがあるというか、話が暗くならないのは、
律の父が亡くなり、違う人というか人でないものに入れ替わってしまい、
今まで知っていた夫や娘婿とは全く違う人物になってしまったのに、
あっさりそれを受け入れ、支えて生活している母や祖母の存在が大きいと思います。
「なんでこんな家に嫁いじゃったのかしら」と祖母が言う場面もありますが、
それも全然シリアスじゃなくてギャグパートでのことだったり、
祖父の血を引き少しは霊感のある母も、何があってもいつも明るいのです。
妖魔を退治することはできないヒーロー感のない律には、親しみを感じます。
妖怪や霊に対峙してもいつまでも素人臭さが抜けないというか、
見ていて毎回ハラハラさせられて、青嵐に助けられてばっかりで。
主人公なのに、ボケ担当というかオチに使われることも多く、
読んでいくうちに、どんどん律が可愛くなってくると思います。
あと、可愛いといえば、二羽の使い魔、尾白と尾黒!
今市子さんは『文鳥様と私』という漫画も描いているくらいの文鳥好き。
妖魔たちは小さめのカラス天狗、という設定のようですが、
魔力が弱まる昼の尾白たちの姿は文鳥のようで、とてもキュートです。
けっきょく、あまり怖い漫画はご紹介できていない気がしますが、
身近にある美しき異形の世界にどっぷり浸かってみてください。
推薦者 Nakamura aya |
ギャラリーカフェオーナー 大磯のギャラリーカフェ「At GALLERY N’CAFE」オーナー。画家・イラストレーターのたかしまてつをアシスタント、DTPデザイナーなどもしながら、趣味で愛猫ナロの姿を撮り続ける自称〈ナログラファー〉。最近増えた猫家族えんにもメロメロ。著書に、ブログ「あすナロにっき」をまとめたフォトエッセイ集『あすナロにっき』『あすナロびより』、幻冬舎の文芸誌「GINGER L。」で連載した猫エッセイ『tサンとナロ』。 |