「あさってDANCE」山本直樹

あさってDANCE(1)

「あさってDANCE」(1)
山本直樹/太田出版

山本直樹氏のデビューは大学生時代と遅咲きの感はあるも,映画化・オリジナルビデオ化・アニメ化と映像化された作品多数。

本稿でご紹介する『あさってDANCE』も1990年から1991年にかけて18禁OVA化、1991年と2005年に実写映画化されています。

山本直樹氏の描くエロの世界に登場する女子は,必ず胸の薄い少女と言うより少年のような体系で,ビアズリーを彷彿とさせるものがあります。

ビアズリーも独特の白黒のペン画で悪魔的な美しさを放ち,同時代の賞賛を浴びたが主題の不遜さに多々論争を引き起こしました。

ただ,ビアズリーは病弱で25才にして夭折しましたが,山本直樹氏の作品には対照的な生命力や力強さを感じます。

なぜなら,人間にひそむ底知れない狂気やエロを過激に描き,それは時として物議をかもし,有害図書指定を数回受けるも,他方で文化庁メディア芸術祭マンガ部門の優秀賞を受賞するという,圧倒的な『面白さ』が,その過激さに眉をひそめる公権力の圧力をはねのけるほどの圧倒的人気というか逆圧力を持つほどの力強さが山本氏にあるからです。

時には人の心をえぐるように鋭く,時にはコミカルに,独特の軽快なタッチで,連合赤軍,新興宗教,いじめ,異常性犯罪……といったシビアな社会問題にド直球で取り組むかとおもいきや,家族,恋愛,セックス,少年時代の閉塞感といった普遍的なテーマもさらっと描いて見せる多才さが山本氏の作品にはあります。

そんな山本氏の作品群の中では『あさってDANCE』は異色とも言えるかも知れません。

時は80年代も終わる頃。弱小劇団で制作スタッフとして資金繰りに奔走しつつ,バイトに明け暮れる貧乏学生,寺山スエキチ20歳。

ひい爺さん大吉の葬式の翌朝,自宅のぼろアパートで目を覚ますと隣には見知らぬ裸の美女が。驚くスエキチを残して彼女は忽然と姿を消す。

その晩,弁護士の立見なる人物が現れ,ひい爺さん大吉の隠し財産4億5千万円の受取人にスエキチが指名されたことを告げる。

劇団の資金繰りに困っていたスエキチは一瞬喜ぶのだが,遺産を手にするためには,大学卒業・社会人・結婚の3条件をクリアしなければならないという。

そして今朝姿を消したはずの謎の美女,日々野綾がその場に割り込み遺産話を知ってしまうが,立見は他人に遺産のことが知れることを警戒し,口外するなとくぎを刺す。

この時からスエキチの疾風怒濤の青春(性春?)の日々が始まります……。

劇団活動のために大学退学を考えていたスエキチだが,4億5千万円獲得のために真面目に大学生活をおくり始め,忙しさに拍車がかかりまともに寝られぬ日々が続く。
日々野は,なんだかんだ理屈をつけてはスエキチのアパートに潜り込み,セックスしたり食事を作ったりとスエキチに付きまとい始める。

職業も住まいも謎の日々野を遺産目当てといぶかしがっていたスエキチだったが,日々野の屈託のなさに次第に魅かれ始める。
劇団では,才色兼備の座長・霜村雅味に密かに恋心を寄せ,先輩団員のフリーター池津はじめには絡まれ,団員からのノルマ回収に四苦八苦する日々。
そしてなんと,ひい爺さん大吉が時折幽霊となってスエキチの前に現れるが,大したアドバイスもなく去っていくだけ。

弁護士の立見はことあるごとにスエキチの生活ぶりを伺い,日々野に対する警戒心が日ごとに高まる。
日々野はスエキチと半同棲生活を続けつつも相変わらず自由気ままな生活を続け,路頭に迷っていた不法滞在の外国人まで拾ってきてスエキチの家に居候させる始末。

そんな中,日々野の別居中のマザコン夫やその母までがスエキチの前に現れ,立見はついには日々野とスエキチの中を割くために,金で雇った深川深雪を劇団員として送り込みエキチを誘惑するよう仕掛けてくる。

更には,大吉の別の孫(大吉爺さんは7回くらい結婚してて,孫も無数にいるらしい)である天才中学生スエが遺産話を嗅ぎ付けてボーフレンドと共に登場。

スエは何故スエキチが4億5千万の受取人に指名されたのかの謎解きのため劇団員になり,日々野の夫に入れ知恵までし始める。
そうこうしているうちに,病気で老い先短い資産家の爺さんに日々野が気に入られた。日々野は夫と正式に離婚し,爺さんと結婚して遺産相続するを計画するが,スエキチはその計画に心穏やかならず……。

とまあ,超個性的な登場人物が次から次へと登場し,しっちゃかめっちゃかな人間模様が繰り広げられるのですが,そこは山本氏の凄さで,ちゃんとまいた種をすべてきれいに刈り取ってくれています。

でも,端的に基軸となっているのは,日々野とスエキチのラブストーリーです。

よく考えたらスエキチも日々野も20歳そこそこ。

スエキチはやりたい盛りのお年頃,他方この年頃は女子の方が少し大人で,日々野の口に出さないスエキチに対する恋心やそれを理解できないスエキチのお子様加減が,非常に繊細にかつ丁寧に描かれていて胸キュン確実です。

もちろん,山本氏お得意のエロチックな2人のからみのシーンは十分に堪能させてもらえますが。

あと,日々野のファッションが素敵です。エロカワイくてファッショナブル!

年齢と体系が許すなら真似したい(ということは,ほぼ真似は不可能です。トホホ……)。

今回は,あらすじに相当文字数を割いてしまいましてネタバレ満載のように思えるかも知れませんが,そこはどっこい,

まだまだ登場人物の3分の2くらいしか紹介していませんし,どんでん返しもございます。

電子書籍4巻とは思えないほどの濃密で,泣き笑いのヒューマンドラマと胸キュンのラブストーリー,是非ご堪能あれ。

推薦者
小林美也子

Kobayashi miyako

教育&映画プロデューサー

漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画制作にも関わる。

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