「ホテルポパン」有間しのぶ

〜有間先生、第23回手塚治虫文化賞マンガ大賞おめでとうございます!〜

ホテルポパンicon

「ホテルポパン」(1)
有間しのぶ/講談社(KCDX)

祝、第23回手塚治虫文化賞マンガ大賞ということで、

受賞作の『その女、ジルバ』と思いきや、ジルバの一巻が出た頃に、

加筆修正を加えた単行本が出て完結した『ホテルポパン』のお話です。

ジルバは皆さん読んだと思いますので……まだの方はぜひ!名作ですよ!

『ホテルポパン』の舞台は山の上の小さなホテル。

再婚した父との新しい家族になじめず、亡くなった母の兄が

オーナーとなったこのホテルに来たナツ(小学四年生、男子)が主人公です。

ホテルといっても、ナツが来た当時のホテルポパンは開店休業の状態。

ご予約が全く入らない日が続き、前オーナーからホテルを丸ごと引き継いだ

今のオーナーは、どうもあまりホテル経営には向いていないようです。

そして、もう一人の主人公といってもいい、ヤヤさんという女性。

彼女は両親とともに前オーナー時代のホテルポパンに勤めていましたが、

両親を火事で亡くし、前オーナーも客死するという不幸に見舞われ、

ホテルの敷地から外に出られなくなってしまい、今のオーナーには

いろいろ不信感もあるのに、止むを得ずホテルで暮らしています。

そんな二人が出会ってから、少しずつ動き出すホテルの時間。

久しぶりのご予約が入り、ポパンのことは誰よりも知っているヤヤさんが

一緒に働きはじめ、ポパンはかつての輝きを取り戻していきます。

訳ありで寄せ集めだけど、少数精鋭のスタッフもみんな良い!

ホッとするような料理を丁寧に作るのは、ヤクザ上がりのトビ。

イケメンバーテンダーのリウフェイは、中国出身らしいけれど

国に残した妻とはどうなっているのやら? 

客室係のみちるさんは、都会で背伸びし過ぎた恋をしていたみたい。

それでも、来てくれたお客さまに喜んでもらおう、

という彼らのおもてなしの素晴らしさは、じわじわ広まっていき、

小学六年生になったナツは、ホテルとともにぐんぐん成長しています。

山の頂上にあるので、途中から歩いて登らないといけないから

たどり着くのは大変だけど、むせかえるような緑に囲まれて建つホテル。

お客さまがゆったりと過ごしてリフレッシュできるホテルポパンは、

なおかつ、くせ者揃いのスタッフたちの癒しの場でもありました。

『その女、ジルバ』では「Bar OLD JACK & ROSE」がそうであったように、

この作品では「ホテルポパン」が、一人ひとりが過去に向き合い、

未来を見て進んでいくために一時的に避難する場所のような、でも、

「いつでもここに戻ってきたい」と思わせるホームのような場所なのです。

どちらも本当にあったらいいのになぁ。

私は「Bar OLD JACK & ROSE」より「ホテルポパン」の方がちょっとだけ好きです。

なぜなら、お酒が飲めないのと、ホテルなら泊まっていけるから。

有間せんせいの描く人たちには、ホワンとした線で描かれているのに、

どの人も芯が強いというか、強い風にも決して折れないしなやかさを感じます。

そして、時々すごく線がエロい!

急におじさんキャラに感じる色気にちょっとドキドキしながらも、

みんなの瞳に未来が映りはじめるのを見ていくうちに、

知らず知らず涙する、そんなホテルのお話、オススメです。

(巻数:全2巻)

推薦者
中村文

Nakamura aya

ギャラリーカフェオーナー

大磯のギャラリーカフェ「At GALLERY N’CAFE」オーナー。画家・イラストレーターのたかしまてつをアシスタント、DTPデザイナーなどもやってます。幻冬舎プラスで連載していた、お店をオープンするまでの連載が電子書籍『お店、はじめました。~40歳未経験のカフェオープン~』になりました。