〜一条ゆかり御大分身炸裂のラブコメ!心に刺さる名セリフの海に溺れる覚悟を!!〜
「正しい恋愛のススメ」(1) |
筆者が大学教員をしていた頃のお話です。
母親が男を作って出て行ったため,父や父の両親と暮らす学生,
母親が近所のおっさんと不倫関係になって家族会議まで開いたものの今は何事もなかったかのように平和に暮らしているという学生,
卒業式で久しぶりに会った途端,「先生ぇ〜!やっと離婚できましたしましたぁ〜人生これからですぅ〜」と嬉々として語る母親,
「熟女パブでバイトでも始めようかしら」と初対面で相談してくる母親……。
学生たちの母親世代(40後半〜50前半?)の女性達の逞しさに隔世の感とともに,感心・感動,そして何か嬉しくなったのが強烈な印象として残っています。
あ,もちろん大学で毎日そんな話ばっかりしていたわけでなく,ちゃんと教鞭とっていましたので誤解なきように。
今回ご紹介する作品『正しい恋愛のススメ』は,漫画界で時代を先取り(し過ぎ?)続けてきた一条ゆかり先生の作品。
さすがです。
90年代半ばにして,出張ホストやゲイといった当時あまり取り上げられることのない世界をモチーフにしつつ,清濁合わせ飲み,手痛い恋愛経験さえも人生の彩にし,仕事も恋愛も友情も家族も貪欲に掴み取るたくましい女性を描いてくださっています。
とは言え,主人公は竹田博明くんという17才の男子。
みかけよく,成績はそこそこ,趣味なし,結構可愛い美穂ちゃんという彼女ありのフツーの高校生。
将来なんて適当に生きてりゃ決まるさと,「まいいか」「いいけどめんどくさい」が口癖。
両親健在で人間関係に悩むこともなく,美穂ちゃんとのセックスもそれなりに充実した平穏な日々に大した不満もないけれどなんとなく退屈な毎日に刺激が欲しいと思っていた。
そんな矢先,秀才委員長の護国寺くんから紹介された出張ホスト(オプションでセックスもあり)のバイトを始めることになった途端,世界が一新。
美人で人気ドラマ作家の常連客・玲子さん(39才)と恋に落ちてしまう。
ところが!玲子さんは目下ラブラブなはずの美穂ちゃんのお母さんだった!!
更に,玲子さんにホストを紹介するM企画の社長・原田は実は玲子さんの元夫で美穂ちゃんの父親なのだが,ゲイに目覚めたことで玲子さんと離婚。
父親がゲイでは娘が可哀想だと思い込んでいる原田は,美穂ちゃんには自分のことを一切知らせないように玲子さんに言い渡している。
人気作家としてバリバリに働く玲子さんとの2人暮らしで育った美穂ちゃんは,子供の頃から家事一切をこなし,性格はいたって前向きで明るく,欲しいものは我慢できない性格は玲子さん譲りのエネルギーいっぱいの女の子。
相当肝の座った玲子さんをして「この子は大物になるかもしれない」と言わしめるほどの器の大きさを感じさせることも。
学校では品行方正・成績優秀・イケメンの誉れ高き護国寺くん。
外国暮らしが長く金持ちの親のお陰で高級マンションに一人暮らしする彼の裏の顔が優秀な出張ホスト。
社長の原田とも年の差こそあれ,不思議と対等な誘引付き合いをし,17才とは思えないほどの分別と知恵を持つ。
流石に,こんなに狭い人間関係の中で,博明くんと玲子さんとの恋が周りにバレないはずがない?
美穂ちゃんのことを愛して愛して止まない原田は父親と名乗り出ることはできるのか?
なにゆえに護国寺くんは若干17才にして冷めたように二重生活を続けているのか?
彼の過去にはどんな恋愛があったのか?
そして,ちょっと楽しみなのが博明くんと玲子さんの関係を知った時,美穂ちゃんはどんな態度をとるのか??
本作は高校生達がメインキャラクター達を占めるものの,大人が高校生目線にしゃがみ込んだり,大人からの目線で彼らを描くのではなく(こういった設定もそれはそれで面白いものはあるのですが)大人の目線にまで上がってこられる聡明さをもった若者だけをモチーフにしているところが,一条先生の真骨頂です。
漫画に限らず,物語を作る際,インテリジェンスの高い登場人物のキャラクター(行動とセリフ)を描くには書き手に登場人物を超えるインテリジェンスが求められます。
高校生とは思えないほどの教養のある護国寺くんと,人気作家の玲子さんのセリフには,心憎いものが多々あります。
玲子さん語録
―覚えておきなさい。お金もらったらプロなのよ。甘えたこと言ってんじゃないわよ―
―欲しいものはがまんしない主義なの
後悔なら死ぬ時まとめてするわ―
護国寺くん語録
―好き勝手やるっていうことは負債も一緒に背負うっていうことで自覚と覚悟がない奴は無理―
―たいていの恋愛には情けなさがつきものだろ
多すぎるか少なすぎるかちょうどいい愛情なんて返ってこないし,重すぎるかねだるかのどっちにしかならないさ―
―秘密を守れない人種って知ってるか
ばかと小心者
守りたきゃもっと自信を持って堂々とウソをつけよ―
頭が良くて,機転も早く,会話も面白い上に肝の座った玲子さん。
とスルッと書くのは簡単ですが,彼女のキャラクターを表す行動とセリフ,さらにはそれらが無理なく湧き出てくる無理のない状況設定。
これらのコンビネーションがメインのキャラクター全員について,確たるデッサン力に裏付けされた美しい線と憎いほどのファッションセンス(服装だけでなく美術も)で丁寧に丁寧に描かれた本作品は,もうもう圧巻の一言です。
コミックス3巻の巻末に掲載された『メイキング・オブ「正しい恋愛のススメ」』では,「美穂ちゃんはプライベートの一条先生・玲子さんは仕事モードの一条先生」とありますが,玲子さんの美貌はまるで一条先生ですし,護国寺くんも,原田も一条先生のある側面を切り取られたような感があります。
誰を主役にしても作品が一つ出来上がるほどに各キャラクターがしっかり描かれています。
コミックス4巻で完結とは思えないほどの濃密さの上に,スピンオフの5巻は4巻の読者への贅沢なご褒美です。
玲子さんのごとく,ちょっぴり意地悪な一条先生。
何が「正しい恋愛」なのか,「自分で」見つけるための指南書としておススメの一冊です。
(全4巻+スピンオフ1巻)
推薦者 Kobayashi miyako |
教育&映画プロデューサー 漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画制作にも関わる。 |