〜とても良質なファンタジーとして楽しみましょう!〜
「動物のお医者さん」(1) |
世にシベリアン・ハスキーブームを巻き起こしたマンガです。
なんといってもハスキー犬チョビの愛らしさがたまりませんが、
当時、実家で犬と暮らしていた私は思っていました。
「犬がこんなに可愛いわけがない、これはファンタジーだ!」
実家で暮らしていた犬(シェルティのルナーといいました)は、
家族で甘やかして育ててしまったせいで、女王様のような性格で、
もちろんウチのコが一番可愛いとは思っているのですけど、
とにかくわがままで家族は振り回されっぱなしでしたから。
さて、本作の主人公は西根公輝くん。
ハムテル(公の字をハムと読みます)だったりキミテルだったり、
皆好き勝手に呼びますが、本名はマサキくんです。
とある大学の近くに住み、その大学を目指していた高校生の時に、
獣医学部の教授にチョビを譲渡され(正しくは押し付けられ)ます。
進学した後はその教授、漆原教授のもとで獣医になるべく学ぶことに。
物静かであまり物事に動じないタイプのハムテルの周りに集まるのは、
とっても個性的な人々ばかりです。
なにかと周囲を振り回す漆原教授を筆頭に、
おっとりというには鈍すぎる助手の菱沼さんなど。
親友の二階堂くんは割と普通のコなのですが、ネズミが大嫌いなのに
ハムテルについてきて獣医学部に進むなんてやはり変わっていますし。
一人ひとりは何となく「こんな人いるかも」という気がするのですが、
出てくる人出てくる人みんなのキャラが濃すぎて、
全体的には現実離れしている世界のように感じます。
そんなところもファンタジーを見ているようです。
獣医学部のお話なので、当たり前ですが動物がいっぱい出てきます。
ハムテルの家でもチョビをはじめ、三毛猫のミケ、雄鶏のヒヨちゃん、
スナネズミ一家が一緒に暮らしています。
動物たちの描写はかなりリアルに描かれているのに、
吹き出し外(動物のセリフ)ではミケが関西弁を話していたり、
それが本当に言ってそうなセリフなのが面白いのです。
大学へ行けば、豚や牛、馬などもいますし、
それぞれの学生の犬や猫も一緒に登校しています。
チョビもしょっちゅう学校に連れて行ってもらっていて、
自由でいいなぁとうらやましくなりました。
たぶん現実の獣医学部では、ここまでフリーダムじゃないでしょうね。
そんなところも含めてファンタジーだなって思います。
でも、こんな大学があったら良いなぁって思わせてくれて、
人も動物たちも誰も否定されずに集っているのが楽しそうなのです。
このマンガの一番ファンタジー感が出ている、かつ私が好きなところ、
それは、動物たちを含めて誰も死なないところです。
獣医学部なので、もちろん「死」は身近に存在しているはずですし、
漆原教授の知人宅で出産した後亡くなったチョビのお母さんや、
ハムテルの祖母が昔飼っていた(おそらく今はいない)犬の話も出てきます。
それでも直接的に「死」を描いていないところが良いんです!
現実を見せていないといわれてしまうかもしれないけれど、
チョビの可愛さを、ミケ姐さんのツンデレを、ヒヨちゃんの最凶っぷりを
素直に楽しんで見ていれば良いのだと思わせてくれます。
ところで、私が一番好きな回は、オペラ歌手のハムテル母が出演するオペラに
ハムテルや二階堂くんが出ることになった回です。なんと動物は一切出ない回。
実は私は、動物たちや周りの人に翻弄されるハムテルの姿を見るのが好きなのかもしれません。
何があっても常に冷静(本人曰く実は動揺していたりするのもご愛嬌)で、
実は一番現実にいそうにないファンタジー色が強いのがハムテルなのかな。
リアルを感じながらも現実離れした世界にどっぷり浸かれ、
動物ものかと思いきや、人間模様の魅力満載のマンガ、おすすめです。
(花とゆめCOMICSで全12巻)
推薦者 Nakamura aya |
ギャラリーカフェオーナー 大磯のギャラリーカフェ「At GALLERY N’CAFE」オーナー。画家・イラストレーターのたかしまてつをアシスタント、DTPデザイナーなどもやってます。幻冬舎プラスで連載していた、お店をオープンするまでの連載が電子書籍『お店、はじめました。~40歳未経験のカフェオープン~』になりました。 |
わたしは、ミケが姐さんモードを発揮する回が好きです。