幽霊は家に憑く?愛する人の最後のメッセージを求めて彷徨う幽霊に幸せな時は訪れるのか?
あらすじ
舞台はテキサス州ダラス。田舎の一軒家で幸せに暮らす妻M(ルーニー・マーラ)と夫C(ケイシー・アフレック)。
ところが,Cが交通事故で突然の死を迎える。
一転,警察病院でCの遺体を確認するM。遺体にシーツを被せ病院を去ります。
で,空舞台が数秒……。
すると,死んだはずのCが突如シーツを被った状態で起き上がり,そのままMが待つ自宅まで戻ってくる。
もちろん,Mは彼の存在には気が付かない。
シーツを被った幽霊のCは,悲しみに苦しむMを見守り続ける。
やがてMは,悲しみにくれているだけでなく,前に進むために引っ越してゆく。
だけど,Cは2人が暮らした家にとどまり,Mの残した最後の想いを求めて彷徨い続ける――。
「妻を残して死んだ夫が幽霊になって2人が暮らした家をうろうろするファンタジードラマ。
と言ってしまえば身も蓋もないようですが,でもま,そんなお話です。
製作費わずか10万ドルという低予算でありながら,各映画賞を受賞し多くの批評家から絶賛され,日本でも,映画関係者の間(?)で,結構話題になったのを覚えています。
なんと,Cの幽霊は,オバQよろしく,シーツを被った幽霊です(笑)。
目のあたりに穴を空けた長〜いシーツを頭から被った,学芸会やハロウィンの余興で出てくるようなあれです。
正直,当時試写会で見ている最中には,ぶったまげました。
「えええ?警察病院で被されていたシーツそのままで行っちゃうの???」
ところが,このシーツのオバケがめちゃくちゃいい芝居をしてるんです。
場面場面で,Cの哀愁,孤独,怒り,気まぐれな感じ,ちょっと凄みのあるところ(新たに家に引っ越してきた一家を追い出すためにポルターガイストやっちゃいます)が見事に表現されています。
まあ,オスカー俳優ケイシー・アフレックの贅沢使いこの上なしですよね。
だって,彼はほとんどシーツの中ですから(笑)。
これは,低予算だから……ではなく,ノスタルジックな雰囲気とセリフを発しないCの悲哀を伝えるため,工夫に工夫を重ねた結果だと思います。
目に見えるシーツの穴が表現する感情や,ドレープの整い方は尋常じゃないですからね。
相当苦労して撮影したと思います。
画面サイズはほぼ正方形のアスペクト比を採用。
これは視野を狭くしてよりパーソナルな視点であることを強調するのがねらいのようですし,ノスタルジックな雰囲気を醸し出すことに成功しています。
とにかく,映像が美しく,音楽のバランスが素晴らしい作品です。
そして,本作の他のゴースト系の作品と大きく違うところは,死んだCが生きているMのメッセージを知ろうと苦労するところです。
通常は,生きている人間たちがこの世をさった人の無念や想いを探ろうとするじゃないですか。
Mはこれまで住んだ家の柱の隙間に,メッセージを書いたメモを挟んでその家を去るという癖があります。
そう,MとCが暮らした家から引っ越す際にも,メモを残すんです。
Cはそこに書かれたメッセージを読もうと四苦八苦します。
はてさて,彼は最後にMが書いた内容を知ることができるのでしょうか?
極力セリフを減らし,時間軸が急に飛んだり,観客の想像力に多くを委ねた,これでもかというくらい観客を信頼した作品です。
例えば,Cが交通事故でなくなるシーンも,車がやってきて「あ〜〜〜〜!!」ガッシャーン……なんてシーンも,Cの亡骸に対面したMが泣き叫ぶシーンも全くありません。
筆者は,詩的でこの上なく美しく暖かなラブストーリーだと思うのですが,他方でほとんどセリフもない上に,時間軸も行きつ戻りつするので,「なんかよくわからない」という向きもあるようです。
とはいえ,本作が何を伝えたいかをネタバレさせるのは本意ではありません。
ぜひ,ご自身の目と感性でお確かめを。
推薦者 Kobayashi miyako |
教育&映画・演劇プロデューサー 漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画・舞台制作にも関わる。 |