「鉄楽レトラ」佐原ミズ

〜自分は自分を諦めていないか?とドキリとします〜

「鉄楽レトラ」(1)
佐原ミズ/小学館(ゲッサン)

私は大学時代に第二外国語でスペイン語を選択した位にはスペインが好きです。

何度か旅行に行って、ピーク時は日常会話くらいは話せるところまでいきました。

(悲しいことに、もはや全く覚えていませんが……

ちょうど大学受験を控えた姪がスペインに興味を持ったようで、

ちょこちょこ昔話を聞いてもらったりして、再びマイブームが来ています。

そんな中、スペイン関連で見つけたフラメンコを題材にしたマンガです。

美しく装った女性が、ギターや歌、独特のリズムの手拍子に合わせて踊る、

華やかで情熱的なイメージのあるフラメンコですが、

それを引きこもりだった高校生男子が踊ることになる、という

ちょっと聞いただけでは、まったくイメージがわかないストーリーです。

鉄宇(きみたか)くん、という、その、ちょっとだいぶ冴えない感じの男子が主人公。

自信のあったバスケットボールにおいて、身体的技術的に挫折してしまった折、

同じくフラメンコを諦めようとしていた女の子と互いの靴を交換することから

お話は始まります。

そんなことなどすっかり忘れて引きこもっていた中学時代を経て

新たに始まった高校生活で、鉄宇くんはあの時の自分の靴に再会します。

そして、あの女の子、宝ちゃんがそのバッシュを心の支えにしてくれていること、

そしてバスケットを頑張っていることを知り、

何もしてこなかった自分にも何かできるだろうかと考えます。

宝ちゃんが捨てたフラメンコ。交換したフラメンコ用の靴は女物でしたが、

今の鉄宇くんの足のサイズにぴったり合いました。

この靴で踊れるようになりたい、そうすれば彼女に会う自信も出るだろうか、

と、鉄宇くんはフラメンコと出会うために動き始めます。

そんな鉄宇くんが高校で出会ったのは、ぽっちゃり体型で自分に自信のない市川くん、

天使の歌声を変声期で失ってしまった菊地くんなど、ひとクセあるともだちです。

フラメンコを習おうと見つけた先生も膝を痛めて現役を退いたおばあさんだったし、

鉄宇くんの周りに集まってくる人々は、みんなどこかで何かに挫折したり

人生を諦めたりしている人たちばかりのようです。

自分で自分を諦めていたのに、家族などの周りは自分に期待をしてくれている、

と気づいた鉄宇くんの三歩進んで二歩半下がり、くらいの頑張りに、

だんだんと周りの人々も前向きに変わっていきます。

そう、これは、みんなの挫折と復活のお話なのです。

宝ちゃんの学校が、鉄宇くんの妹の中学校の高等部だったということもあり、

すぐ会えそうなのに会えないふたり。鉄宇くんは何度も宝ちゃんを見かけているのに、

なかなか宝ちゃんが気がつかない、というかふたりがなかなか出会わないので、

非常にやきもきします。しかし、最高にカッコイイ鉄宇くんを見せられる瞬間で

宝ちゃんに見てもらえることになるので、結果的には大満足です!

そう、最終回で踊るアレグリアスという曲目のレトラ(歌の歌詞)と

鉄宇くんのカッコイイ踊りは本当に感動しますよ!

フラメンコ、生で観に行きたくなります。

あと、鉄宇くんの妹の銘椀(なまり)ちゃんが恐ろしく健気で可愛いです。

生まれて初めて妹萌えという言葉の意味が分かった気がします、

というのは冗談ですが、銘椀ちゃん無くして鉄宇くんの復活は無かった!と

言えますので、その活躍にも注目してください。

人生悲喜こもごものフラメンコなマンガ、オススメです。

推薦者
中村文

Nakamura aya

ギャラリーカフェオーナー

大磯のギャラリーカフェ「At GALLERY N’CAFE(http://www.atgallery.info)」オーナー。画家・イラストレーターのたかしまてつをアシスタント、DTPデザイナーなどもやってます。幻冬舎プラスで連載していた、お店をオープンするまでの連載が電子書籍『お店、はじめました。~40歳未経験のカフェオープン~』になりました。