「吉祥寺キャットウォーク」 いしかわじゅん

〜さすが巨匠!秒速で好きになり,じんわりと効いてくる吉祥寺人情話〜

吉祥寺キャットウォークicon

「吉祥寺キャットウォーク」(1)
いしかわじゅん/エンターブレイン

巨匠いしかわじゅん先生の名作『吉祥寺キャットウォーク』は,その名の通り,吉祥寺の街で生活する愛すべき人たちの物語です。
とにかく,とにかく,弱い人は出てきますがとことん悪い人が出てきません。

とはいえ,ゆる甘な人物描写はなく,登場人物1人1人のキャラを,オフビートな笑いを交えつつ丁寧に描き切られているのは「さすが!」の一言です。

主人公は17才の高校生小夏ちゃん。

聡明だけど勉強は嫌い。

同級生とつるまないクールなところがちょっとマニアックな男子達の心をくすぐるが,小夏ちゃんは見向きもしない。

事故で両親を無くし,叔父夫婦に引き取られてはいるけど,両親が経営していたラブホで一人暮らしをしている。

決してメソメソしてはないけれど,寂しさを持て余した時は井の頭公園のステージで缶コーヒー(Boss無糖)を飲む。

そんな小夏ちゃんがふとしたきっかけで,古びたビルの二階にある喫茶店(カフェじゃないのよ〜)“キャットウォーク”で働くことになり,常連客を中心に,吉祥寺で生活する様々な大人達に出逢います。

仲がいのか悪いのかわからないオーナー夫婦,

10年間に10回以上別れている直木賞作家と大学教授の中年ゲイカップル,

二つ目の落語家,

売れっ子キャバ嬢,

元レスラーの双子の兄弟に兄弟の先輩レスラー,

50年以上も前からバーを経営していて界隈の美少年(?)をことごとく食っちゃっている美魔女のママ(実は男性),

そして小夏ちゃんがほのかな恋心を抱いてしまうムショ帰りのヤクザ,カオルちゃん。

組長宅に居候するカオルちゃんは,業界では一目置かれているヤクザ。

老齢の組長からはメチャクチャ頼りにされ,危ない仕事(殺っちゃうとか)も淡々とこなす。

いい男なので女性にもモテモテで,組長の情婦にも言い寄られて,ついつい関係を持つ。

組長の女に手を出すなんて超やばい設定なのに,そこはいしかわ先生,組長・カオルちゃん・情婦の掛け合いが,いちいち落語のネタのように面白いのです。

この3人の関係も本作の読みどころの1つです。

「吉祥寺キャットウォーク」©いしかわじゅん著 発行所:エンターブレイン

カオルちゃんは,仔細を聞かずして小夏ちゃんの孤独を理解してくれます。

もちろん,小夏ちゃんの恋心に気付かないような鈍感ではありませんが,そこはサラっとかわしつつ何かと気遣ってくれます。

この辺りが,カオルちゃんが女性にモテる所以なのですよね〜。

2014年に連載の終わった本作ですから,たまぁ〜っにスマホらしきものは登場するのですが,全体に昭和の香りが漂います。なぜなら登場人物達が歌う歌が,めちゃくちゃ昭和どストライクな感じなので……。
いえいえ,そんなノスタルジーさをアピるつもりは毛頭ございません。
小夏ちゃんから見た大人達の悲喜こもごも,登場人物たち一人一人の人生,そして小夏ちゃんがまだ知らない・知らずに過ごして欲しいような人間の弱さゆえに陥る社会の闇……

どのエピソードも,なんか,なんか,とにかく良いのです。

あれこれ書いてきましたが,実は「とにかく良えのよ〜読んでみ〜」としか言いたくない本作,是非!

推薦者
小林美也子

Kobayashi miyako

教育&映画プロデューサー

漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画制作にも関わる。