〜少女漫画にあるまじきビジュアルのヒーロー?!〜
「俺物語!!」(1) |
今回の漫画は映像化もされた有名作品なので、知っている方も多いと思います。
私が手にしたきっかけは、原作の河原和音先生のお名前が目に入ったこと、そして何より表紙のインパクト!!
高校~大学あたりの私はどっぷりマーガレット派だったので、河原先生の漫画はよく読んでいました。
自身でもあんなに可愛い絵を描けるのに、どうして原作を?
と不思議に思いましたが、主人公の剛田猛男くんのビジュアルを見れば納得です。
非常に個性的、あまり少女漫画では見かけないタイプのお姿で、登場人物の中でひとりだけ劇画調といいますか……。
初見ではこんな子が主役を張って大丈夫なのかと不安に思ったものです、すみません。
しかし! 読んでいくうちにその不安なんてまったく忘れちゃいました。
猛男くんは、とにかく良い奴で力強く男子からの人気は絶大なのですが、その外見から女の子受けは残念ながらよくありません。
一方、幼なじみで親友の砂川誠くんは正統派イケメンで、女子に大人気。
幼稚園の頃から猛男くんが好きになった子はみんな砂川くんを好きになってしまいます。
それは見た目だけでは当然の流れ……。
そんなふたりが高校生になったときのことです。
電車の中で痴漢から助けた大和凛子ちゃんに猛男くんはときめきます。
でも、この子もやっぱり砂川くんを好きになるんだろうな、と勝手に思い、猛男くんは身を引くことを考えます。
ところが、まさかの両思いで凛子ちゃんと付き合うことになり、「俺物語」が始まります。
つねに片思いしかしてこなかった猛男くんには、女の子と付き合うことの何もかもが初めての体験。
凛子ちゃんも猛男くんが初彼だったので、何をやっても初々しいふたりが微笑ましいのです。
でも、少女漫画の王道的なラブストーリーを期待していると、それはちょっと裏切られることになります。
初デート、文化祭、夏に海、修学旅行などなど、学園モノでのお約束のシチュエーションはもちろん盛りだくさんなのですが、猛男くんという存在が、この漫画を特別なものにしているんです。
猛男くんはつねに凛子ちゃんのことを考えて行動します。
「オレは彼女を笑顔にできているか」ということを第一に、自分にできることは何かないかと考えながら動くのです。
そして、いつも自分の気持ちをちゃんと凛子ちゃんに伝えます。
「好きだ」とか「かわいい」とか、照れてなかなか言えないことを、(もちろん照れて言えないことも多いけれど)ちゃんと伝えるんです。
読んでいるとふと気づきます、猛男くんという人間がいかに大きいか、いかに人間ができているか。
高校生の可愛い恋愛を眺めているつもりが、果たして自分は猛男くんのように生きられているのかということを問いただされているような気になってきます。
砂川くんが「勉強っていうのは人生を間違えないための智恵だから、おまえには必要ないんだろうな」と猛男くんに言うシーンがありますが、本当に猛男くんというヒトは、難しいことはよくわからねえなんて言いながら、凛子ちゃんをはじめ周りのひとを思いやり、自身を精進することに全力を注いで生きています。
地味な子がメガネをコンタクトにしたら美人だった、というようなお約束はありません。
猛男くんはいつまでもデカくてゴツくて、クマのような風貌のままです。
でも、読んでいるこちらの目が大きく変わっていきました。
その真っ直ぐさと人間の大きさに、いつしか猛男くんに惚れこんでしまうのです。
「人間は見た目じゃない」とかじゃないんです。
凛子ちゃんが言うように、「猛男くんはかっこいいよ?」って自然と思えてきます。
少女漫画におけるヒーロー観を変えられちゃう漫画、オススメです。
(全13巻)
推薦者 Nakamura aya |
ギャラリーカフェオーナー 大磯のギャラリーカフェ「At GALLERY N’CAFE」オーナー。画家・イラストレーターのたかしまてつをアシスタント、DTPデザイナーなどもやってます。幻冬舎プラスで連載していた、お店をオープンするまでの連載が電子書籍『お店、はじめました。~40歳未経験のカフェオープン~』になりました。 |