「夢中さ,君に。」和山やま

〜中高一貫男子校高等部で育つのは,友情か愛情か?夢中になる“君”って誰?〜

夢中さ,君に。icon

「夢中さ,君に。」
和山やま/KADOKAWA

生物って,雛とか赤ちゃんと言われる時代って超可愛いけど,成長途上ってなんか歪だと思いません?
ヒヨコは超可愛いけど,成鳥(鶏?)になる途中は結構不気味。
オタマジャクシは何とは無しに可愛いけれど,途中で足が生え……てくるとこれまた可愛くなくなる。
ライオンも赤ちゃんは可愛らしいけど成長途中はなんか手足の長さのバランスとか悪くて,成獣になると顔の大きさと体の骨格とかバランスが取れて威厳まで出てくる。

で,人間も10代半ば〜後半って(見た目の美醜は個人差著しいですが),精神的にとても歪な気がします。
そう,バランスが悪い。

そんな,時代の後半の男子高校生たちをめぐる物語が本作『夢中さ,君に。』です。

すでにpixivやTwitter,同人誌を経て大注目の和山やま氏。
本単行本が商業誌デビューで,初出版されるやいなや,大ブレイク中のようです。

中高一貫男子校を舞台に繰り広げられる男子同士の友情というか,ほんの少し友情を超え……かけた??ような,絶っ妙な距離感の人間関係をシュールで緻密な画力と,キャッチボールを通り越してドッジボール並みのインパクトある会話でリアルに,しかし,そよ風吹く湖面のごとく静かに描かれている心地よ〜い作品群です。

何人かの男子高校生が登場しますが,フューチャーされているのは林くんと二階堂くんです。

仲間とつるむことなくいつも孤高を保つ林くん。
「無駄なことができるほど自由な時間があるっていうのがなんか……心地いいんだよ」(←じゃあ,勉強しろよ)
と,ふた昔ほど前のデカダンス?な雰囲気を漂わせているかと思いきや,実家の中華料理店をパンダの着ぐるみきて手伝う孝行振りも垣間見せます。

ある出来事がきっかけで,林くんのことを「かわいい」と思うようになりつつある江間くんとのやりとりを描いた『かわいいひと』。
おっと,単純にBLと考えてはいけませんよ〜。

淡々と階段の踊り場で干し芋を作る(←自由だよなぁ〜)林くんを見初め,絵のモデルになってくれと頼む小松くんと,「暇じゃあないけど……暇つぶしに忙しい」と言いつつもモデルを引き受ける林くんのエピソード『描く派』。

さて,こんな風変わりな林くんが,先輩と後輩をパシリにしていじめているやりとりを遠くから見つけると,どんな行動をとるでしょうか?
男子高校生あるあるのリアルな日常を描いた『走れ山田!』。

ジメジメした不気味なオーラをまとい,いつもすんごい猫背で歩いている二階堂くん。

二階堂と目があうと金縛りにあう……

二階堂と口をきいたらテストの解答欄がずれてしまう……

二階堂に話しかけた人間は生え際が後退していく……

などなど,都市伝説さながらの噂が校内中に流れ,誰も二階堂くんに近寄ろうとしません。

そんな二階堂くんの前の席に決まった目高くん。
最初は二階堂くんのことを気味悪く思うものの,掃除当番で組むことになり,少しずつ二階堂くんの心を開いていきます。

で,こここが和山氏の巧さです。
このあり得ないような二階堂くんをめぐる噂を単なるギャグネタでは終わらせません。

そうです。
なぜ二階堂くんは,こんなにも全校的に忌み嫌われ・恐れられるようになったのでしょうか?
その原因が目高くんの目線で徐々に解明されて行きます。
この辺りの謎解き(?)もお楽しみの『うしろの二階堂』(←うしろの百太郎かよ!),『おまけの二階堂』『うしろの二階堂 怒りの授業編』『うしろの二階堂 恐怖の修学旅行編』。

そして,男子高校生の友情物語だけではありませんよ〜。

女子高生も若干登場します。
「月が綺麗ですね」よろしく,古風なボーイミーツガールを描いた『友達になってくれませんか』もスーパーキュートなお話しです。

かつて全国の少女の心をときめかせた雑誌「それいゆ」や「ひまわり」を彷彿とさせるような古風ながらも確固としたデッサン力に裏付けられた緻密かつ無駄のない絵柄,抜け感というか,オフビート感溢れるストーリー展開。

何度も読み返したくなる,本当に気持ちの良いお話しが詰まった珠玉の一冊です。

推薦者
小林美也子

Kobayashi miyako

教育&映画プロデューサー

漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画制作にも関わる。