「アリエナイ月曜日」他 |
死んだら人はどうなるのか?魂はどこへ行くのだろうか?
……みたいなことは(多分)誰しも一度も考えたことがある。
よく「死んだ婆ちゃんが見守っていてくれる」なんて聞くと,「そうだよね。だから頑張んないとね(何をかはともかく)」と適当に返事はする。
けど,よくよく考えると,自分の子供を育て上げ,孫ができて,さらに孫の世話をして,その孫(場合によったら自分の子供も)のこと死んだ後まで空(かな?)から見守るなんて……んなめんどくさいこと,たぶん私はできない(孫はおろか子供もいない身の上ならではの無責任さかも知れないが)。
そりゃあ相当善い人なんじゃないか?私だったら,「あ〜〜やっとこさ浮世の憂さから逃れたんだからこれからはのんびりと……」なんて考える。
と思う。
……いや,待てよ,それは,そこそこ長生きして人生を全うした感じで死ねたらばこそかも。
道半ばで死のうものなら未練たらたらで,念というか魂みたいなものが病んだ状態でそこに漂うかも。
ましてや恐怖と痛みにさいなまれて殺されでもしたら,どろどろして念とかがどっかにこびりついたみたいになって昇天(?)できないようにも思う。
だとすると,そんな魂を治癒というか浄化する存在があってもおかしくないかも(凡人にはハッキリと目に見えないだけで)。
と,ぐるぐる考えていたら,いらっしゃいました。教えてくださる方が。
『アリエナイ月曜日』に書かれてありました。
魂を浄化してくれる天使とそれを司る神がいるのです。
……なんかの宗教かいっ!べたべたのファンタジーかいっ!と突っ込みを入れたくなるのは解ります。
いやいやご安心を。
もんでんあきこ氏ですよ。
もちろん,激しく説得力があり,共感までしてしまいます。
神と天使で組織され、天界の生命維持管理局という官僚組織みたいなのがあって,局長がいわゆる【神】で,何人もの職員が【天使】として勤務しています。
監察官や課長,といった役職まであります。
この天使たち本来の姿は,超カワイイぽよよんとした球体です。
見かけは自在に変えられるので,人間の脳裏に浮かぶ人物に変身して話し相手になってくれる。
最大の弱点は体液が一滴でも外に漏れること。
大泣きすれば命にかかわるし,射精なんてしようものなら再起不能(笑)。
局長からノルマを課され,死んだ人間の魂浄化をこなさなければなりません。
時には自殺しようとする人間を説得して思いとどまらせようとします。
なぜなら自殺されると魂の浄化ラインに乗せる手続きが煩雑になって業務量が増えるからです。
天使たちの仕事ぶりとそれを指揮する局長(神)と人間とのかかわりが5編の物語を通じて描かれます。
管理局の書類ミスで余命1日となった人生に夢も希望も持っていないOLの最後の夢をかなえようとする天使の少し泣けるお話し,本書のタイトルにもなっている『アリエナイ月曜日』。
男にダマされて自殺しようとする女の自殺を阻止しようとしているうちに(理由は先に述べたとおり),彼女とセックスしてしまい(射精します(笑))再起不能に瀕する天使の『シカタナイ一夜』。
戦後の暗い世の中の光となる声を持つ女性歌手に恋をし,服務規程違反を犯した天使の切ない物語『キリガナイ虹の果て』。
そして,本作の最終章『ヤルセナイ愚か者』では,彼らはなぜ【天使】や【神】として人の魂を浄化する職務を担わなければならないのが明らかにされます。
人間の業の深さと救いを見事に描き切った顛末は圧巻です。
追記:もんでんあきこ氏の独特の世界観は,後の『ナギと嵐』※1にも引き継がれ,もんでん氏の大好物?”くるくる黒髪に無ひげの無骨で色気ある男”は,本作のシカタ(天使のひとり),『ナギと嵐』の嵐,同書に収録されている短編『官能小説家』の主人公として,「女衒夜話」※2 のキリオ,として登場します。
※1 「ナギと嵐」集英社 マーガレットコミックス
霊能力を持つ薄幸の美少女ナギと人間の身体を借りた天使が繰り広げるラブ・ファンタジー。
※2 「女衒夜話」集英社 クィーンズコミックスDIGITAL
終戦直後の東京で闇を這いずるように生き抜く男たちを描いたハードボイルド・ロマン。
推薦者 Kobayashi miyako |
大学教授&映画プロデューサー 漫画と映画で人生を学び,現在は大学で法学を教えつつ映画制作にも関わる。 |