「ハチミツとクローバー」羽海野チカ

 

「ハチミツとクローバー(1)」
羽海野チカ/集英社クイーンズコミックスーヤングユー、コーラス

泣きたいときはコートで泣けと教えてくれたのは、宗方コーチだったでしょうか(アニメ「新・エースをねらえ!」主題歌より)

宗方コーチが言っていたのはスポ根的な話なので、泣きたくなってももちろんテニスコートには行きません。

でも、たまには涙を流さないとなんだか心がカサカサしてしまう気がして、無性に泣ける話を観たり読んだりしたくなることがあります。

そんなとき、私は漫画を読みます。

漫画や本はたいてい一度しか読まない、という人が私の周りにいます。

漫画だったら一コマ一コマ、ときには戻ったりしながらじっくり時間をかけて味わい尽くすそうです。

私は逆に読むのがとても早いので、最初の一回はザッとしか読みません。

その漫画や本が自分の好みかどうかを嗅ぎ分けるために読むのです。

そして気に入ったら何度も読みます。

何度も何度も読むと、その漫画で自分がどんな気分になるのか分かります。

そして、○○な気分になりたいときにはあの漫画を読もう、と思うリストが作られてゆくのです。

そんな私が泣きたいときに読むのが『ハチミツとクローバー』です。

全10巻あるので、ちょっと時間が取れるときじゃないと読めないのが残念ですが、本棚から10冊を持ってきてソファに陣取り、大判のタオルと水分補給のお茶を用意してから読み始めます。

現在は『3月のライオン』で有名な羽海野チカさんのデビュー作、通称ハチクロ。

アニメや映画、ドラマといろいろメディア展開したので、ご存知の方も多いかなと思います。

美大を舞台にしたいわゆる青春群像劇で、「登場人物全員片想い」なんていわれたくらい「恋」のお話です。

主人公をはじめ、それぞれが自分のやりたいこと、できることを見つけていく「自分探し」の漫画でもあります。

でもやっぱり共感するのは圧倒的に「恋」の部分。

片想いのせつなさや辛さ、それでも楽しさがあったり、ちょっとの出来事が幸せだったり……私はわりとどの人物にも共感します。

一番自分を重ねてしまって身悶えるのは……真山くんかな。とにかくみんな片想いをしているので、だれかひとりくらいは過去の自分の片想いを重ね合わせて見られる人がいるんじゃないかなと思います。

でも、最後は主人公竹本くんの片想いに涙するのです。

1巻から読んでいって、途中胸がしめつけられたり涙ぐんだりする場面もけっこう出てきます。でも、絶対にそこでは泣きません。

グッとこらえて最終話の竹本くんがひとり新幹線に乗っている場面で号泣するのが、私のハチクロの読み方です。

彼の片想いの結末、それを通して彼が出した結論、それが嬉しくて切なくて涙するのです。

十分泣いた後はお茶を飲んで、乾いた心もノドも潤ってスッキリ。

ちょっぴり蛇足ですが、単行本の10巻に収録されている「星のオペラ」という短編があります。

コミック・キューという雑誌の企画で「もしも、ドラえもんの〈ひみつ道具〉があったら?」というお題でいろいろな漫画家さんが描いていたものです。

私が初めて羽海野チカさんの漫画を読んだのが、これでした。

「この短さで、あのひみつ道具でここまで泣かせるなんて、この人すごい!」と思いました。

時間がないときは、この短編だけ読んで泣くこともあるくらいです。

たまには泣ける漫画を読んで、スッキリ! おすすめです。

推薦者
中村文

Nakamura aya

ギャラリーカフェオーナー

大磯のギャラリーカフェ「At GALLERY N’CAFE」オーナー。画家・イラストレーターのたかしまてつをアシスタント、DTPデザイナーなどもしながら、趣味で愛猫ナロの姿を撮り続ける自称〈ナログラファー〉。最近増えた猫家族えんにもメロメロ。著書に、ブログ「あすナロにっき」をまとめたフォトエッセイ集『あすナロにっき』『あすナロびより』、幻冬舎の文芸誌「GINGER L。」で連載した猫エッセイ『tサンとナロ』。