「ありをりはべり」「いまそかり」日向なつお

「ありをりはべり」(1)
日向なつお/講談社(Kissコミックス)

夏にやった「鬼談・怪談特集」の時、自分の持っている漫画をさらってみたのですが、

怖いのが苦手といいいながら、ホラーとまでいかない不思議系の漫画はけっこう読んでいました。

どうも「怖がらせよう」という演出が苦手なだけで、そういうお話自体は嫌いじゃないみたいです。

本サイトを主催されている今井美保さんの妖怪漫画『びこたん』もかわいくて大好きですし、

先の企画でご紹介した『百鬼夜行抄』や、『夏目友人帳』なども読んでいます。

そんな中、いちばんほのぼのしている妖怪漫画は何かな?とふと思い、

選んだのが今回の『ありをりはべり』『いまそかり』です。

『ありをりはべり』の続編が『いまそかり』ですので、続けて読むのがおすすめです。

棗(なつめ)ちゃんは、不思議なものが見える高校生。

不思議なものといっても、幽霊や妖怪といったものはほとんど出てこず、

主に氏神様や道祖神などのいわゆる八百万の神様が見えるのです。

神社の神主さんの息子の藤島くんと一緒に、土地の歴史や神様を研究しているという

地歴部に入った棗ちゃんが、高校を卒業して働き出すまでを描いています。

少しさかのぼって中学時代のお話もあります。

絵柄がほんわかしているので、神様たちも含めて出てくるコたちが皆かわいい。

高校で最初に出会った産土神のミーシャが特にお気に入りです。

恋愛成就とかパワースポットのお話もあり、

怖いお話ではないがしろにされがちな恋愛もしっかり描かれています。

この漫画で特にいいなと思ったのは、周囲の人たちの温かさ。

彼女が「見える」のを知っている(と明言されている)のは、

棗ちゃんのおじいちゃんと藤島くん一家くらいです。

でも、なんとなく周囲のひとたちは感づいているんじゃないかなーと

思わせる雰囲気もあります。気づいていなかったとしても、

「見える」せいかちょっと変わっている棗ちゃんを、受け入れて

接してくれている周りのひとたちがステキだなと思うのです。

高校卒業後の進路に悩んだり、恋愛問題に直面したり、

普通の高校生と変わらないことに翻弄される棗ちゃんを、

神様たちと周囲のひとたちは同じように優しく見守り、時に助けてくれます。

「見える」ことって辛いことのようにも語られることが多いですが、

この漫画では、むしろ良かったんじゃないかなって思えるほど。

昔は「見えた」藤島くんなど、「見えるようになりたい!」と願っていますし。

改めて読んでみると、これは「怖い話」「不思議な話」じゃなくて、

ちょっと個性的な女の子の成長を追う、その周囲のひとたちも含めたお話、

なのかもしれません。

ちょっと不思議な優しいお話、おすすめです。

推薦者
中村文

Nakamura aya

ギャラリーカフェオーナー

大磯のギャラリーカフェ「At GALLERY N’CAFE」オーナー。画家・イラストレーターのたかしまてつをアシスタント、DTPデザイナーなどもしながら、趣味で愛猫ナロの姿を撮り続ける自称〈ナログラファー〉。最近増えた猫家族えんにもメロメロ。著書に、ブログ「あすナロにっき」をまとめたフォトエッセイ集『あすナロにっき』『あすナロびより』、幻冬舎の文芸誌「GINGER L。」で連載した猫エッセイ『tサンとナロ』。