「シスタージェネレーター」 沙村広明

〜どんな時にも絶望せず知恵を振るえ。そして実行するための勇気をほんの少し。それは銃にも勝る強い牙。〜

シスタージェネレーターicon

「シスタージェネレーター」(1)
沙村広明/講談社

沙村氏の作品に登場する女子はとにかく強い。

強い。強い。強い。

陵辱され,瀕死の状態になっても強い。女々しさのかけらも感じさせない。

ヒーローもの(漫画に限らず,映画でも)にありがちな,「ヒーロー辺りをうろうろする女子が(彼女には悪気はない。むしろ彼の助けになろうとする)敵役に捕まり,ヒーローを窮地に追いやってしまう」なんて設定に辟易している(おめぇ!だからうろうろすんなって!と思わずツッコミを入れ,器量の狭さが爆裂する)筆者にとっては,沙村作品に登場する強く凛とした女子は大好物です。

今回は,そんな強い女子たちが主人公の短編集をご紹介します。

表紙絵だけでなく,タイトルまでポップな本作を手に取るや否や,騙されたとしか言えない気分になる『久誓(くぜ)院家最大のショウ』は,谷崎潤一郎よろしく耽美的で倒錯した愛の世界。 モデルとなった家は都内某所にあるそうです。

西日暮里の旧安田楠雄邸かしらん?

谷崎潤一郎の倚松庵(いしょうあん)は芦屋だしなぁ。

他の作品の合間合間に登場する『制服は脱げない』全8話。

サチ,リミ,ニュウ子,3人の女子高生のゆるい会話で,世相をゆる〜くなぐり書き(?)した8つの小品。

男だったら自刃(じじん)して欲しいわよねの台詞を吐き,1人で焼肉食べながら漏れ聞こえたおっさんの会話に突っ込むニュウ子(女子高生が1人で焼肉食べに行きますか?普通)。

日本人の歪な(?)宗教観をバッサバッサと切り,語る恋愛観が人生の辛酸を嘗め尽くした初老の女子のようなサチ。

「ぬれる」とか,「裂ける」とか,「とろける」とか,「6P」とか,最近の○○はいやらしいったらありゃしない!と毒づくサチの台詞には大爆笑です(さて,○○には何が入るでしょうか?二文字じゃないですよ)。

最後の最後まで会話のグタグタぶりには拍車がかかりながらも,語彙の豊かさは女子高生のレベルをはるかに凌駕し,知性と教養溢れるおっさんの面白い会話を聞いてるがごときです。

ああ,なので作家の人との会話は面白いんですよね〜。

身分差別が状態の時代に戦争で負傷し,人間らしさを失うほど醜く様変わりしてしまった金持ちと貧しい少女のお話し,『ブリギットの晩餐』。

これもラストの展開が,読者に読む力を要求します。

漫画家を目指す青年と同居する女子中学生の愛ある生活物語の『シズルキネマ』。

青年の描く漫画の萌ポイントは「ブルマ」。

初掲載の夢叶い,女子中学生が色っぽいご褒美をくれるかと思いきや(それまで風呂は一緒に入れどもそこまで止まりだった)…

ラストの大どんでん返しには沙村作品の真骨頂が見て取れます。

著者が初めて九蓮宝燈アガった時のことを描いた『下層戦略鏡打ち』。

気恥ずかしい程のド・ストレートな青春恋愛ドラマ『青春じゃんじゃかじゃかじゃか』。

これもラストのひねりが並みじゃないです。

そして筆者一番のお気に入りの『エメラルド』です。

後書きで筆者曰く,西部劇って背景砂漠ちかだから楽だろうとなめてかかって描き始められたらしい著者初の西部劇。

あにはからんや,背景・風景大変でアシさんを困らせたという,鉄塔徹尾シリアスなドラマです。

時代劇なめてはいけませんよね。

ま,今の時代でも相変わらずセクハラ・パワハラ満載ではありますが,人身売買が普通に横行していた時代に金貸しの餌食にかからんとする少女を,カッコいい女子が知恵を駆使して,無法者たちから少女を助けようとします。

「腕力には腕力……銃には銃……これは男達のやり方。女(あたし)達には無理−」この次にくるのが,本稿のキャッチフレーズです。

はてさて,女子はどんな知恵を見せてくれるのか,何故に少女を助けようとするのか,果たして女子の知恵は荒くれ男たちを打ち倒すことができるのか?

台詞のうまさは言わずもがななのですが,登場人物の表情を描き切る画力,そしてコマ割りが感じさせる緊張感たるや,迫力ある短編です!

超シリアスなお話しの合間に挿入されるコメディものに翻弄されながらも,沙村ワールドを隅から隅まで楽しめる1冊です!!

推薦者
小林美也子

Kobayashi miyako

教育&映画プロデューサー

漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画制作にも関わる。