〜セックスと愛の深淵を,レトロなタッチでコミカルに探る,鬼才,原律子氏が描く伝説の書。〜
「奉仕ノ白薔薇」<全1巻> |
人の性愛に関する嗜好は様々で,当事者でなければその深淵は理解し難いものです。
サディスト,マゾヒスト,◯◯フェチ,異性装,露出,窃視……
これらは世に,「変態」と称され,公には語りにくい性的嗜好となり,時には病とされ,心無い言葉を投げつける輩もいます。
今回ご紹介する『奉仕ノ白薔薇』の著者,原律子先生は,この「変態」に正面から真面目に丁寧に向き合った作品で,コミックスの出版が1989年。
今やアマゾンだと古本でしか入手できない希少本?となっております。
圧倒的なデッサン力と,昭和の少女小説の挿絵を彷彿とさせるレトロで可愛らしい絵柄で描かれるのは,全編,ちょっと特殊な性的嗜好をめぐる物語の数々。
目次からいくつか拾ってみますと……
M女の告白
戀の奴隷
調教
君に制裁を
放置ノ白薔薇
殴られる女
と,ただならぬ様相を醸し出しています。
しかも,登場人物の「成り成りて成り合はざる処」も「成り成りて成り余れる処」も,丁寧に?描かれていますし,SもMもスカトロも,バッチリ描かれています。
確かに,読む人を選ぶといえば,選ぶ作品なのかもしれません。
にもかかわらず,そこには,あっけらかんとした笑いとペーソス,そして愛を感じるのは,原律子先生が本書のテーマに真摯に向き合っているからなのだと思います。
また,本書の大きな特徴のひとつが,一貫して使われている旧仮名遣いの文体です。
「何故,變はった人にしか……」
「走って來たんです。」
「さうなんぢゃ無いかなー。」
「思ってゐた」
こんな感じで吹き出しも,モノローグも全て書かれているので,そこはかとな〜くのんびりした雰囲気が漂います。
一つ一つのお話は,短いのですが,随所にちりばめられた,「ぢょわうさま」「どれい」「ごほうし」などの専門用語(?)の解説にも原律子先生の愛が感じられます。
よく,「MとSならどっち?」に対して, 「Mは痛いからいやだ。Sがいい」と答える向きが多くいらっしゃいます。
ですが,Mの痛がること,嫌がることをするのは,それは単なる虐待であって,SMとは言えません。
「奴隷のお客様に喜んで頂く完璧な揺り(いたぶり)をする事が,私達女王の御奉仕なのよ!……常に頭を働かせー奴隷の考えを先回りして欲しい事を見つけ出し,更にそれをいかにも苛めて,さうしてる様に持つて行ってさしあげる……女王様の真髄は奉仕の心なの。」
この台詞,名言です。
ちなみに,筆者のお気に入りは,
「人魚姫」と,奉仕ノ白薔薇(四齣編)の「淋しい老夫婦に御奉仕」です。
前者は,これぞ人魚姫の真理を突くのではないかとドッキリさせられ(アンデルセンの性的嗜好?),後者は思わず大爆笑のウィットに富んだ傑作です。
どのお話も,「うわっ!」と思うような,画とモチーフではありますが,わずか143ページに詰め込まれた性愛の深淵,のぞいて見る価値はあります。
本書を出版してくださったマガジンハウス社にも感謝。
推薦者 Kobayashi miyako |
教育&映画プロデューサー 漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画制作にも関わる。 |