「3月のライオン」羽海野チカ

〜新刊がでるのが本当に待ち遠しい!〜

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「3月のライオン」(1)<既刊15巻>
羽海野チカ/白泉社(ヤングアニマルコミックス)

今回おすすめするのは、私が今いちばん新刊が待ち遠しい作家さんのひとり、羽海野チカさんの『3月のライオン』です。
この本棚で私の第一回目のおすすめで羽海野先生の『ハチミツとクローバー』をご紹介したのが……もう4年前になりますか、月日が経つのは早いですね。

前作は美大を舞台にした「恋」と「自分探し」の物語でした。
この『3月のライオン』は「将棋」にまつわる物語です。
高校生だけどプロ棋士という「桐山零(きりやまれい)」くんが主人公です。

将棋……既に連載は何年にもわたり単行本も15巻まで出ていますが、私は実はいまだに将棋のやり方はわかっていません。
プロ棋士の監修も入っていて、将棋のいろいろな戦略なども紹介され、将棋を知っているとより面白く読めるとは思うのですが、先々まで読んで勝負するというのがニガテな性分なのです。

そんな将棋を知らない私でもストーリーにはまりました。
単に勝った負けた、将棋の世界で最強を目指すぜ!というお話ではないのです。
将棋は骨組みのようなもので、血肉になり物語を彩るのは主人公やその周りの人々の「人生」です。
君はいかに生きるのか、ということを常に投げかけてくる物語です。

将棋の世界はスポーツなどとは違い、若さや身体能力が有利で強いというわけではありません。
もちろん、千日手といってそれまでの勝負を一旦なかったことにして、休憩後、または後日対局をやり直す、なんて時もありますので、体力がなかったり持病を抱えていたりする棋士は体調管理が大変です。

それでも、読みの深さやひらめきが勝敗を分けますので、かなり高齢の棋士まで幅広い年齢層がいる世界なのです。
そんな中で、史上5番目に中学生でプロになった零くんの周囲には期待や嫉妬やいろいろなものが渦巻いているのは想像に難くないわけです。

ひとり暮らしを始めた街で出会った将棋を知らない姉妹との触れ合いや、一年遅れで通うことにした高校で出会った頼れる先生や先輩、将棋の世界でもきちんと向き合ってくれている友人や諸先輩がたがいることにもちょっとずつ気づき始める零くん。

そして、そもそも「自分は将棋をやりたいのか?」という大前提に、なんどもなんども突きつけられてしまう零くん。
これを高校生の少年がやっているということに、何も考えて生きていなかった自分の高校時代を思い返し、戦慄するのです。

すべての登場人物に背景をしっかりつけてくれる羽海野先生ですので、将棋の世界で次々と現れる対局相手や、周囲の人々の「人生」をきっちり見せてくれます。
そのぶん零くんの「人生」はゆっくり考えてゆっくり進める時間がありますし、その周囲の人の影響でまた零くんの「自分探し」は加速するのです。

きっと誰もが誰か自分が一番気持ちを寄せられる登場人物がいるはずです。
私は……零くんが通う高校の先生、林田先生かな。きっと羽海野先生が、林田先生にもステキな人生を描いてくれることを祈りながら読んでいます。
前作『ハチミツとクローバー』を読んでいる方は、ぜひ14巻を読んでください。
懐かしい顔ぶれを見ることができますよ。

将棋ブームすら起こした、でも将棋を知らなくてもハマれる漫画、おすすめです。

推薦者
中村文

Nakamura aya

ギャラリーカフェオーナー

大磯のギャラリーカフェ「At GALLERY N’CAFE」オーナー。画家・イラストレーターのたかしまてつをアシスタント、DTPデザイナーなどもやってます。幻冬舎プラスで連載していた、お店をオープンするまでの連載が電子書籍『お店、はじめました。~40歳未経験のカフェオープン~』になりました。