官能的でもイヤらしくないのはそのセンスの高さから。新作なのにどこかエロ懐かしいお色気漫画。
「ニッポン夜枕ばなし」<既刊2巻> |
絵を描く仕事をしているときに聴くのはもっぱらラジオ。
といっても生放送を聴くことはほとんどなく、聴くのは主にネット録音したプログラムで、僕は一週間に24本のラジオ番組を聴くのである。
それはそのうちのひとつ、日曜深夜に放送している細野晴臣さんの番組「Daisy Holiday」を再生していた時のことだった。
番組の冒頭でかかったのが「大土蔵録音2020 山田参助とG.C.R.管絃楽団」の「夏の行進曲(海へ山へ)」という曲で、その昔録音されたSP盤音源を当時の技術と今の技術を駆使して再現録音しているグループの演奏である。
(*おくらのあな編集部注 YouTubeに動画ありますが、URLは割愛させていただきます)
千葉にある大きな土蔵でマイク一本を使って収録(つまりモノラル音源)したとかで、ともかく音がいい。
聴いてみたら本当に昭和初期に録音された音源をリマスターしたかのような音色でペンを動かしながら思わず眼を瞠(みは)ってしまった。
「なにこれ?」
すごい演奏。しかも歌声がまた古い。
古い? 唄っているのは今の人でしょ?
と思っているとゲストMCの岡田崇さんが
「ヤマダサンスケさんね。すごいんですよ、この人。いろんな声色で。
絵を描く方でいま『新やる気まんまんオット!どっこい』を描いてますね」
と。
「なぬ!?漫画家か!?」
ぜんぜん知りませんでした。初めて聞く名前。
さっそく検索。ふーむ「山田参助」と書くのか。
その「新やる気まんまんオット!どっこい」のほかに「あれよ星屑」という作品も描いていてなんとこちらは第23回手塚治虫文化賞で新生賞も受賞しているという。
この絵にこの歌唱。何という多彩な人でしょう。
才人である。
唄う発音を聞いて「大阪の人?」と思ったらやっぱりそうだった。
「か行」を「有声音」で発音する人は関西に多いのだ。
で、ネットで試し読みをしてもっとも僕が気に入ったのが今回とりあげた「ニッポン夜枕ばなし」。
絵に魅了されました。
うまい。
さっそく取り寄せて読んでみてまた感心。
「くだらない!」(誉め言葉です)。
「しょうがねぇなぁ」と笑いながら最後まで読みました。
ストーリーはあってないようなほぼ4コマ漫画のような構成でサクサク読めて楽しい。
しかも女性はかつての小島 功先生を思わせるなめらかな筆致で描かれて妖艶だし、ほかのキャラクターも昭和の香りがただよって、当時を知る人間にとっては親しみやすいことこの上ない。
つまりどこか懐かしい。
「どっかで見たことあるよなぁ」と思い返してわかりました。
その時代を知らない方々はまったくわからないでしょうけれど、僕が子供の頃に見ていた「お笑い三人組」や「ジェスチャー」といったNHKのテレビ番組に使われていたイラスト(調べてみたら局の美術担当さんの手によるもので作者は不明とか)にとても似ているのだ。
ははあ。だからなんか懐かしく思うのかと得心しました。
お笑い三人組(NHK放送史より)
https://www2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009010008_00000
ジェスチャー(NHK放送史より)
https://www2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009010048_00000
それにしてもこういう当時をまったく知らない世代が古い時代の文化に惹かれて再現しようとするジャンルはいつの時代にも一定数存在するんじゃないか、とつくづく思う。
ちょっと前なら戸川純、林海象なんかがそうだったし、いまの時代でも椎名林檎なんかにそのテイストを感じることがある。
定期的に繰り返し評価されてフォロワーが増える泉鏡花や竹久夢二なんかはその源泉としてのいい例だ。
けして悪いことじゃないと思う。
この手の大衆文化は消費されて消えていくだけではなくて、こうして具現化されればみごとに再現・復活できるんだ、となにか勇気をもらったような気さえする。
「人は死んでもいなくならない。その人のことを覚えている人が一人もいなくなったとき、初めてこの世から消えるのだ」
という言葉をつい思い出す。
コマ割りが田河水泡、大城のぼるを思わせる1ページ4コマというシンプルさで読みやすいところも好感で、オチが毎回健全にスケベなところも楽しく何回も読める作品です。
ぜひどうぞ。
しっかしクダラネェなあ(誉め言葉です)、これ(笑) 2巻も買う。
山田参助さん。
さらにいろいろ検索してみたらミュージック・ソーの口真似したり、しみじみ唄を聴かせる動画があったり、とともかく多彩。
ちょっと注目していましょう。