「妖怪アパートの幽雅な日常」深山和香・香月日輪

人生は長く，世界は果てしなく広い。人間，幽霊，妖怪の“縁”が少年を成長させるスーパー奇譚！

「妖怪アパートの幽雅な日常」(1)＜全24巻＞ 深山和香・香月日輪/講談社

先月（2021 年 10 月），『月刊少年シリウス』にて 10 年にわたる連載が終了したばかりの本作『妖怪アパートの幽雅な日常』（通称「妖アパ」？）。

大ヒットした香月日輪氏による小説（2003 年）はもとより，アニメ化，舞台化されたのでご存知の方も多いとは思いますが，漫画連載終了は感無量ということで，今回ご紹介させていただきます。

主人公の少年，稲葉夕士（いなば ゆうし）が，様々な“縁”を通じて成長していく長編大冒険ストーリー。

と言ってしまえば何の目新しさもないようですが，中学生だった少年の成長を，学園ドラマ，エンタメ，ファンタジー，そして，若干のホラースパイスを効かせて描いた展開が長きに渡りファンを獲得し，アニメ・舞台制作者の心を動かしたと言っても過言ではないと思います。

中学 1 年の時に両親が他界してから伯父一家に身を寄せていた稲葉夕士（いなば・ゆうし）16 歳。1 日も早く自立したいと，学生寮付きの商業高校に進学しする。

ところが，学生寮が全焼したため，行き場をなくしてしまう。謎の不動産屋に紹介されたのが，トイレ風呂共同だが，三食賄い付きで光熱費込みの家賃２ 万 5000 円！の寿荘（ことぶきそう）という破格物件。

何かあるのか？と思いきや，これまた怪しい不動産屋の店主が「出るんだな。コレが」と夕士を脅す。

寿荘には，JK，霊能力者，古物商，古本屋などの癖の強い「人間」に混ざって，明らかに異形・異様なものに限らず，人間と見分けが難しい「妖怪」「幽霊」も暮らす。

夕士も当初戸惑っていたものの，住人たちと触れ合ううち，目には見えぬが心に響くものの存在に敬意をはらうようになり，居心地の良さを感じるようになる。

半年後に学生寮が再建されて入寮するが，やはり妖怪アパートへ戻ることとなる。

再開した寿荘での生活を通じて，夕士はひょんなことから魔道書の主に選ばれ，霊力を鍛える修行を積むことになる一方，様々な事件に遭遇してゆく……。

物語のコアは，高校生になったばかりの夕士君の成長物語で，寿荘に出入りする人間，妖怪，幽霊たち， 高校教師，バイト先の上司・先輩たちが，他界した両親に代わって（？）夕士を導いてくれます。

寿荘の地下には温泉があり，大家さん（これがド迫力のある妖怪）の計らいで，お月見場や雪原，修行のための滝まで用意されるゴージャスさ。

そして，生前料理が得意だったものの，遺体をバラバラにされたことから，手首だけの姿で幽霊となった賄い婦のるり子さん。

彼女が季節の食材を駆使した料理は絶品で，住民が調達してくる名酒とともに，物語に大いに花を添えてくれます。

いや，温泉とるり子さんの料理だけで，寿荘に入居したくなります。

超かっこいい霊能力者の龍さん，世界を股にかけて奇書・古書を探す古本屋，詐欺師まがいの口の巧さで商品をさばく骨董屋，母親に虐待された死んだ魂が成仏できず赤ん坊の姿のままのクリ，クリの母親を嚙み殺した後に殺処分されクリの世話をする犬のシロ，抜群のプロポーションとお色気たっぷりのだけど妖怪保育所で働く幽霊のまり子さん，異能を持つ天才的な歌唱力を持つものの教師になり，夕士の高校担任になった千晶直巳（ちあきなおみって…笑），超セレブの家庭に育ち，容姿端麗，頭脳明晰，品行方正（のフリが上手い）で夕士の中学時代からの大親友・長谷。

多くの登場人物が入れ替わり立ち替わり登場するものの，彼らのキャラクターが立っていることに加え， 歴史と救いまでが丁寧に描かれているたえ，全く混乱させられません。

そして，移りゆく季節と時間の流れがきっちりと表現されているのが超長編にも関わらず，読者を飽きさせないポイントです。入学式，卒業式，学園祭，修学旅行，定期試験……夕士の高校行事，日本の四季折々の行事や伝統，文化，神社や祠，神棚への人々の思いと由来までの伝えてくれます。

加えて，幼児虐待，いじめ，スクールカースト，SNS の便利さと弊害，子どもが育つ環境……と現実世界の問題にも触れつつ，夕士が禍々しきものたちと対峙する姿を描く構成力は圧巻です。

そして，そして，多くのキャラクターの登場で蒔いたタネを，各々のエピソードで全て回収しているのも読み応えの要素です。

親に限らず，周りの大人たち（それが人間であろうが，妖怪であろうが）の善意と愛に守られていれば，芽生えた命は真っ当に育つことを改めて教えてくれる秀作。是非！