「たかが黄昏」花沢健吾

壮大なプロット,ワクワク感絶頂……刹那,突然の別れ。真剣に物語の先に思考を凝らすことこそが楽しみ方?

たかが黄昏icon

「たかが黄昏」(1)<既刊1巻>
花沢健吾/小学館

本年度ベスト 3 に入るほどショッキングな出来事が……。赤坂の TSUTAYA が 2022 年 1 月末で閉店と。

んな訳で,レンタル落ちコミック全巻セールのワゴンの中で,キラリと光る一冊。

ど〜〜んと,全巻ビニールでまとめられて販売されている数々のコミックの中で,ピンでワゴンに佇んでいた本作。

「え?1 巻だけ?……う〜む。2 巻以降は別途購入か,Kindle か」と考えつつ,ジャケ(表紙)買い。

800 万部超の大ヒット,大泉洋さん主演で映画化された『アイアムアヒーロー』の作者・花沢健吾氏。

これまた,奇想天外な世界観,壮大なプロットで楽しませてくれるものと期待しつつ,ページをめくると…
…。

冒頭,見開き 2 ページ,黒のバックに「2119」の文字がど〜ん。

めくるとこれまた見開き 2 ページ,黒のバックに『たかが黄昏』 花沢健吾の文字がど〜ん。

どーも近未来(2119 年)のお話らしい。

ですが,セーラー服の女子高校生たちが真剣に(夕食の材料確保のため)潮干狩りに勤しむ上空を, “SAIR FORCE”の航空機が低空飛行しています。

昨今の SF ものに登場する未来の地球は一度破滅の危機を乗り越え,人口減少,世界は狭まり,大多数の国民は昔(今の時代から見ても)の生活を営んでいるのが常(?)ですが,本作の世界観もそんな感じです。

本作も御多分に洩れず,主人公である 17 歳の JK,ひなたは,古びた共同住宅に住み,元気一杯の妹, 祖母と暮らし,銭湯に通う日々。

そして,ひなたが生まれた 17 年前に,日本最後の「男」が死んでいます。

今や,日本に居住するヒト科の動物はメスのみ。

人口は激減し,その原因は戦争,革命,粛清もさることながら,何よりも死亡原因のトップは自殺だった。

憲法は改正され,徴兵は国民(女性だけですが)の義務となり,食料は配給制。そして「男」・「異性間の性」を想起させるような言動は反体制とみなされる厳しいし統制が行われている。

しかし,トイレや銭湯は二つに分かれたまま。

好奇心旺盛で屈託のない性格のひなたは,そんな社会や大人たちに疑問を抱き,会ったことのない「男」に興味津々。しかし,砂浜で「男」と砂文字を書くことさえも,同級生から止められる。

ひなた姉妹の母親の存在は? なぜ,「男」が死滅したのか?

「男」が死滅したにもかかわらず,女性たちはどうやって妊娠しているのか? ひなたの妹はどうやって生まれたのか?

なぜ,「男」を想起させるような言論が厳しく統制されるのか?

なぜ,大人たちは女性以外に「男」という性を持つヒトがいたことを隠そうとするのか?

そもそも 17 年以上前,日本に,世界に,何が起きたのか?

etc.

1 巻を読み進めるうちに,様々な???がもくもくと湧いてきたその時,ひなたはある日の放課後,校庭の片隅で思わぬ人物と遭遇したところで第 9 話が終了。

2019 年 2 月初版発行の 1 巻巻末には「第 2 集 今秋発売予定・・・」とあります。

もちろん,筆者も早速ネットで 2 巻以降を検索するも…… な,な,無い〜〜〜。

検索エンジンには,たかが黄昏“打ち切り”“休載”の文字が自動的に上がってくるので,むむ,嫌な予感が……

はい。

そのとおりです。第 9 話以降,休載のままです。

『Sirabee エンタメ』(https://sirabee.com)によると,作者の花沢健吾氏自ら,「テーマの難易度が高く挫折してしまいました。

再開の目処が立っていません」

と語られているとか。

蒔かれた種はどれもこれもそそられるネタありますし,多くのファンが渇望しているにも関わらず,「たかが黄昏」は,我々を置き去りにしたままのようです。

ま,『アイアムアヒーロー』にもそういった感は否めないところがなきにしもあらず,だったので想定内っちゃ想定内でもありました。

にも関わらず,今回ご紹介したのは,既刊 1 巻だけでも読む価値ありと考えたからに他なりません。

髪の毛一本一本にまで神経の行き届いた妙にリアルな画風。

雑誌掲載時のカラーをそのまま収録した第 1 話ラストの美しさ。

普遍的ともいえる思春期の女子たちの心の揺れ。

「女だけワールド」は特に目新しい設定でもないにも関わらず,先を読みたくなる展開。

そして,あちこちにばら撒かれた伏線。

さてさて,どんな回収方法が考えられるか?

読者も受け取るばかりでなく,10 話以降の展開を具体的に考える楽しみ方(作者は意図されてはいないでしょうが)を,本作で味わうのも一興かと。

そう考えると,なんども読み返したくなる一冊であること間違いなしです。

推薦者
小林美也子

Kobayashi miyako

教育&映画プロデューサー

漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画制作にも関わる。