日本が住み辛いなら,「逃げる」……もとい,「脱出」。そして,「住む国を選ぶ」のも生きる術。
「だから死ぬ気で旅に出た」<全1巻> |
本作の主人公,片岡恭子さんの職業は「運び屋」。
いやいや,合法な職業ですよ。
別名「ハンドキャリー」。
企業・個人から依頼されて超急ぎで海外に届けたい荷物を運ぶ,いわばバイク便ならぬ飛行機便。
先週はタイに 3 回。昨日帰国したばかりで今夕にはメキシコシティ。明日の予定はいつも未定。
チケットはいつも当日券。
帰国便は 3 日後がほとんどーホテル代を入れても 3 日後のチケットが一番お安いそうです。
貯まったマイルは 200 万マイル超え!?ユナイテッド航空の最上級会員。
スペイン語・英語を操り,「運び屋」,ガイドブック(“地球の○き○”とか)のライターとして世界を股にかけ,様々なメディアに取り上げられ,旅にまつわる講演会も多数。
どんな危険な目にあっても冷静沈着な片岡さん。
実は日本では精神を病んで入院寸前だったのです。
幼い頃から人間関係がうまくいかず,母親との確執と相まって 10 年以上も毎朝胃液を吐くほどに。
大学卒業後,図書館司書に勤めた後,スペインに語学留学。
帰国後に大失恋,そして更なる母親との確執の末に幻聴が出るほどにメンタルが壊れ,とうとう自ら「精神病院に入院させて」と母親に懇願する……と,そのとき,911 の惨状がテレビに!
「明日どうなるか誰にもわからない」
「見たいものがある」
「旅の途中で死ねるかも」
直後に飛行機に飛び乗り,そこから中南米を 3 年にわたって放浪します。
アンデスの雪山では遭難して低体温に陥り
ボリビアでは日焼けで耳の皮が丸ごとズル剝け
アマゾンでは食中毒で腸の粘膜が剥がれ落ちベネズエラではギアナ高地で軍に拘束され
フィリピンでは風土病で 40 度の高熱を出し……
旅先でのエピソードは,小沢カオル氏のほわんとした画風でコミカルかつ軽いタッチ描かれているものの,想像を絶する危険指数。
幾度となく死の淵ギリギリまで追い詰められますが,彼女は死にかけるほどにタフなり,どっこい生きています。
片岡さんはどこまでも飛び歩く。
絶対日本では味わえないような現地のグルメを貪欲に喰らい,熱を出しても,寝て,また喰らい,飛び歩く。
そして,帰国後,偶然手にした「ハンドキャリー」が天職に。
彼女が危険な地に足を踏み入れながらも,行きてこられたのは,「無謀だけど運が良かった」からではありません(確かに多少は運もあるでしょうが)。
生存本能の強さと冷静な判断能力のなせる技だと思います。
非常に頭のいい方です。
彼女は教えてくれます。
「無知は悪だ。不運ではなく無知だから,トラブルに遭うしだまされる。
知識があれば物事の解像度が上がる。
柔軟性こそが賢さ。
強いものでなく,適応したものが生き残る。
ただし,波風を立てずに流されていくことは柔軟性ではない」
生きづらさに押しつぶされそうになり,日本を脱出。
「死ぬ気で旅に出た」はずが,南米をめぐる「旅」によって生かされ,たくましく再生していくコミックエッセイ。
不寛容さ満載の今の日本。
息苦しさ,を感じた時には是非。
推薦者 Kobayashi miyako |
教育&映画プロデューサー 漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画制作にも関わる。 |