鎮魂も慰霊も,鎮められ,慰められるのは生きている身体に在る魂なのかも。
「サマーゴースト」(1)<全2巻> |
地方都市にある閉鎖されて草の原となった飛行場。
そこで花火をすると,自殺した若い女性の幽霊“サマーゴースト”が現れるというという都市伝説がささやかれていた。
しかし,実際にサマーゴーストに出逢ったものはいない。
そんな中,インターネットを通じて知り合った高校生の友也,あおい,涼の 3 人は初めてリアルに対面し,花火を持って旧飛行場に向かう。
夜も更け,花火も尽きかけてきた頃,3 人の前に噂通りの若い女性の幽霊が現れる。
「サマーゴースト…ですか?」
「私の名前は佐藤絢音。変な名前で呼ばないで」
幽霊に逢うためのはずの花火を楽しみ,初めて会ったとは思えないほど打ち解けてはしゃぐ 3 人。
だけど絢音は,あおいに囁く。
「私は誰にでも見えるわけじゃない。
私のことが見える人はね……死に触れようとしてる人だけ」
3 人の誰もが,自分以外の 2 人はなんの悩みもなく,夏を謳歌する高校生と思っている。
だが,あおい・涼・友也,それぞれの視点で彼らの高校生活や家族との関係性が語られ,絢音の囁きの意味が徐々に明らかになる。
学校で強烈ないじめに遭い,自死する日を指折り数えるあおい
不治の病から余命宣告され,生きたくとも未来を諦めている涼
母親の過干渉に逆らえず,死んだように日々をやり過ごす友也
友也は救いを求めるかのように一人で飛行場跡に通い,花火を灯し,絢音と会い続けます。
やがて,“サマーゴースト”となって彷徨う絢音のため,あるものを探し始める。
いじめ?そんなことで死にたいって
お前,本気で言ってんのかよ。勝手に死んでろよ。
涼が放つ正論に対して,あおいは言います。
「死にたくないって思えるのって幸せなことなんだよ
私には自慢にしか聞こえないな」
友也に促され,あおいも涼も,絢音のために奔走するようになる。
死生観に悩み,生きることにも死にゆくことにも抵抗する彼らが,絢音のために探し物を見つけることはできるのか?
見つけることで救われる何かがあるのか?
生きることが多分正しいのだろうし,生きていればいつか楽しいことがあると人は言います。
でも,思うほど器用に生きられなくて,周りからの期待に応えるのも辛く,あまりにも苦しい今が果てしなく長く感じるとき,いったいどう現実と折り合いをつけていけばいいのか。
高校生でなくとも,いい歳になっていたとしても,そんな思いに駆られた時……
そんな時に読み返したくなる一冊です。
loundraw 氏の原案・監督で 2021 年 11 月に公開された,わずか 40 分の短編アニメのコミカライズ作品(脚本を担当した乙一によるノベライズ作品もありますね)なのはご存知の方も多いかも。
アニメでは語りきれなかった彼らの物語を知るのも一興。
是非,アニメとともにお楽しみを。
推薦者 Kobayashi miyako |
教育&映画・演劇プロデューサー 漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画・舞台制作にも関わる。 |