演劇「煙が目にしみる」主催団体「劇団だるま座」公演

最期の時,心残りなことを伝えらる最後の2時間があるとしたら,誰に・何を伝えますか?

「煙が目にしみる」
主催団体「劇団だるま座」

1964年に開館してから約53年。

ザ・ビートルズ,カーペンターズ、レッド・ツェッペリン、シカゴ、ディープ・パープルなどの名だたる大物アーティストが初の来日公演に選んだ「ロックの聖地」日本武道館。

筆者もRADWIMPSの初武道館ライブをアリーナ席2列目で鑑賞しました。

そんな武道館で,約4300人の参列者による(当初6000人予定でしたが)国葬が執り行われました。

最後の献花が終了するまで4時間超えの長丁場。

その間演奏し続けた自衛官の姿には感動しました。

やっぱ武道館……?

ま,だからというわけではありませんが,今回は,通夜も葬式も,ワイワイと身内や親しい人間で済ませた後,火葬場で繰り広げられる人間ドラマをご紹介しましょう。

とある地方都市,桜の舞い散る頃。

火葬場の待合室で煙草をふかす初老の男・北見と,ガタイのいい中年男・野々村。

ところが,彼らが身につけているのは,三角頭巾に,手甲,脚絆といった「経帷子」!?

そう。

彼らは,今,火葬されようとする故人の幽霊。

なんのご縁か,2人はたまたま同日同時刻に火葬されることとなり,死後の最初の友人となった。

野々村家は,未亡人ほやほやの妻に娘,息子(遅れてやってくるのだが),従姉妹夫婦に遠縁の親戚や,町内会の面々,熱血野球部監督だった野々村の仕事関係者,そしてボケ始めたお婆ちゃん(野々村の母親)達が,田舎の葬式よろしく,てんやわんやの大騒ぎ。

それに比べて北見の親族は,娘と近所のレンタルビデオ屋の店長のみと,どうも訳ありな様子。

どうも北見の死因に原因があるらしい。

そんな最中,なんと,お婆ちゃんには北見・野々村の姿がふつーに見えるらしい!?

誰にも見えない北見と野々村に向かって話すお婆ちゃんを,火葬場に集まった人々は訝しげに見守る。

しかし,時折まとも(?)になるお婆ちゃんの機転のおかげで,北見と最後のお別れができなかった若き恋人が呼び出される。

そして,家庭を顧みず野球一筋の昭和の頑固オヤジだった野々村,妻や子供達の本音が引き出されていく。

この世に生を受けるのは奇跡だけど,死は必ず訪ずれる。

とは言え,「突然」だ。

だから,葬儀も火葬も,非日常のようでいて,実は日常だ。

だけど不意の出来事に,恨みつらみも感謝も愛情もない交ぜに,あれやこれやの後悔もある。

残された者は,故人を想うが,今更確認しようもない故人の想いは想像するしかない。

「煙が目にしみる」は,そんな日常を描きつつも,あれやこれやの後悔を,「もし,最後の最後に想いを伝えることができるなら?」とファンタジーを描いている。

やがて,骨揚げ(収骨)となり,集まった人々は日常へ戻っていく。

火葬場で起きた不思議な出来事が,彼らに少しの変化をもたらしつつ。

昔から,様々な団体が上演してきた名作「煙が目にしみる」。

26周年を迎えた劇団だるま座でも何度となく上演し,今やだるま座のお家芸。

物語のキモとなるのは,なんといっても,にわかイタコ?になったお婆ちゃん。

戦中戦後を逞しく生き抜き,人生の酸いも甘いも噛み分けたお婆ちゃん。

逆援(息子の野々村が亡くなった)も「死んじゃったもんはしかたないじゃない」と軽く受け流し,ボケはじめた?彼女の立ち居振る舞いはユーモラスだけど,なぜか心に残る。

だるま座座長の剣持直明が演じるお婆ちゃんは,今の日本演劇界では右に出る者はいないと言っても過言ではない。

2022年,満を持しての演劇のメッカ下北沢での初めてのお披露目となる劇団だるま座の「煙が目にしみる」。

剣持直明のお婆ちゃんに出逢えるのは奇跡です。

こんなご時世だからこそ,故人が骨になるまでの2時間のドラマに,泣いて笑って,笑って泣いて,大切な人へ想いを馳せるひと時にーー。

「煙が目にしみる」

公演日:2022年10月21日~30日 
※公演スケジュールの詳細はだるま座HPまで

http://www.daruma-za.net/nextstage.html

演出:剣持直明

原案:鈴置洋孝

作:堤泰之(プラチナペーパーズ)

製作:有限会社だるま企画

劇場:下北沢 小劇場B1

世田谷区北沢2-8-18 北沢タウンホール地下1階

03-6416-8281 小田急・京王井の頭線「下北沢」徒歩8分

料金:一般・4800円,U26・4000円,若手公演・3000円 

※全席自由

予約:カルテットオンライン

https://www.quartet-online.net/ticket/kemuri2022

推薦者
小林美也子

Kobayashi miyako

教育&映画・演劇プロデューサー

漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画・舞台制作にも関わる。