映画「セールスガールの考現学」監督/脚本:ジャンチブドルジ・センゲドルジ

モンゴルのアダルトショップでバイトを始めた女子大生。悩み,考え,人生の楽しみ方を学んで行くー

「セールスガールの考現学」 原題: Khudaldagch ohin(英原題 THE SALES GIRL)
監督/脚本:ジャンチブドルジ・センゲドルジ
プロデューサー:ジャンチブドルジ・センゲドルジ、フスレン・バムバー
撮影:オトゴンダワー・ジグジドストン
音楽:ドゥルグーン・バヤスガラン(Magnolian)
出演: バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル,エンフトール・オィドブジャムツ,サラントヤー・ダーガンバト,バザルラグチャー

モンゴル映画!?

草原を舞台に,馬で駆けめぐり,ゲルが出てきて焚き火を囲んで食事して……とお考えでしょうか(失礼)。

確かに,ほとんどの日本人のモンゴルイメージは,草原,放牧,馬,一攫千金を狙う力士?

本作はそんな我々の固定概念をひっくり返す,都会(モンゴル・ウランバートル)に住む女子大生サロールの成長物語。

冒頭,バナナの皮に足を滑らせて,派手にすっ転ぶ女子大生。

ありえないほどに派手に転び,転んだ体勢からは???な足のギブスと松葉杖。
画面には“FUCK Banana”

バナナのせいで骨折した彼女は,同級生のサロールにアダルトグッズショップのアルバイト代行を頼む。

オーナーが厳しく,代わりを見つけないとクビになると脅され,高給バイトを失いたくない彼女は必死だ。

さして親しくもないのに頼んでくる彼女に,サロールは「どうして私なの?」と聞くと,「あなたなら秘密を守ってくれそうだから」。

大人しく,いわゆるいい子ちゃんのサロールは,親の希望のままに好きでもなんでもない原子力工学を専攻している。

サロールの本当の関心事は芸術で,両親の目を盗みながら好きな絵を描きつつ,代わり映えのしない日々を過ごしている。

1ヶ月だけの約束で,大人のおもちゃに囲まれながら働くことになったサロール。

目を合わせようとしない顧客にセールストークをし,時にはグッズの配達もし,客宅でセックスを目の当たりにしたり,商品を受け取る客に援交(モンゴルでなんと称するのかは不明ですが)を迫られたり,大学の教員が買い物にきたり……

結構な目に逢いつつも辞めないのは,オーナーのカティアに惹かれるものがあるから。

サロールの祖母の年齢にあたるオーナー女性のカティア(ロシア語名)は,元はダンサーで,高級フラットに住み,贅沢そうな暮らしをしている。

アダムスファミリーのモーティシアのような雰囲気のカティアはサロールに様々なことを教えてくれる。

「眉毛ボーボーは,いかさな。ちゃんとお手入れを」

「赤ちゃんはマネして言葉を覚えるの。SEXも同じ。マネして覚えるの」

「親の言いなりなんてナンセンス。遅かれ早かれ,子供は自立していくんだから」

物語冒頭では,うっすら口髭も生えているような冴えない女の子だったサロールが,次第に洗練され,内面から滲み出る輝きを放つようになってきます。

なんともいえないオフビート感,鮮やかな色使い,ビビッドなカメラワーク,音楽使いの絶妙さ……

学生たちの苦しい経済状態,親の希望で学部を選ぶ多くの学生,閉塞感からモンゴルを出たいと思う若者,今のセックス事情(?),といったモンゴルの社会状況の片鱗を織り交ぜながらも,絶妙なタッチで笑いを誘いながらサロールが鮮やかに脱皮してゆく様を描かれていきます。

超カッコいいお婆ちゃんに導かれたサロールの進む先はーー?

社会主義時代のモンゴル映画は,国策映画しかなかったと言っても過言ではなかった。

民主主義に移行してたった30年のモンゴルはここまで先進的で,ポップな映像作品を作る才能に溢れていることにも脅威と歓迎の興奮を覚えた本作。

ボーイフレンドと自室で初体験にチェレンジするも,急遽帰宅した両親に見つかってしまうシーン。

「自宅暮らし若者あるある」のシチュエーションなのですが,大爆笑のシーンは必見です。

本人が出演もしているMagnolianの音楽もサイコーです。

モンゴルを見直すきっかけにもなる本作。

ゴールデンウィークの始まりにぜひ映画館で!

2021年/モンゴル/モンゴル語・ロシア語/123分

後援:駐日モンゴル大使館

日本公開:2023年4月28日(金)

配給・宣伝:ザジフィルムズ 

公式サイト:http://www.zaziefilms.com/salesgirl/

© 2021 Sengedorj Tushee, Nomadia Pictures

推薦者
小林美也子

Kobayashi miyako

教育&映画・演劇プロデューサー

漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画・舞台制作にも関わる。