映画「トリとロキタ」原題:TORI et LOKITA 監督/脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ

こんなにも,美しく激しく,決して裏切られ,裏切ることのない友情があるものなのか……

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映画「トリとロキタ」原題:TORI et LOKITA
監督/脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
撮影監督:カロリーヌ・タンブール
出演:パブロ・シルズ、ジョエリー・ムブンドゥ
上映時間:89分
配給:ビターズ・エンド
日本公開:2023年3月31日(金)
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はい。今回ご紹介するのは,ダルデンヌ兄弟です。

もうあまりにも有名ですけど,1999年にパルムドール大賞と主演女優賞をW受賞した『ロゼッタ』以降、全9作品連続でのカンヌ国際映画祭コンペティション部門出品の快挙を成し遂げ、世界中で100賞以上を獲得するという、ベルギーの奇跡と言うてもええほどの兄弟監督なんです(淀川長治さん風に読んでください)。

ドキュメンタリー制作から出発し,如何ともしようがない運命に翻弄され,蹂躙されながら生きる人々,それでもどこかに救いのある作品を世に送り出し続けてきた彼ら。

しかし,本作はダルデンヌ作品で初めて、怒りまでをもにじませながら,ヨーロッパに亡命した子供たちの暴力的で過酷な状況を告発というか,挑発的な一作となっている。

母を訪ねて三千里では,お母さんが,イタリアからはるばるアルゼンチンへと出稼ぎに出てた。

だけど,本作のロキタは十代後半なのに,アフリカからベルギーのリエージュで働いて,家族に仕送りをしている。

物語は,ロキタがビザ取得のために,尋問のような面接を受けている場面から始まる。

質問にうまく答えられないロキタはパニック発作を起こす。



カメルーン出身のロキタとベナン出身のトリ。

ふたりはアフリカからベルギーへたどり着く途中で出逢った。

2人はイタリア料理店の客相手にカラオケを歌って小銭を稼いでいるが,それは表向き。実はシェフのベティムが仕切るドラッグの運び屋が本業(?)だ。

年上のロキタは社会からトリを守り、幼いながらも非常に頭のいいトリはときに不安定になるロキタを支えながら暮らしている。

アフリカの家族に十分な仕送りをして弟を学校に行かせたいロキタは,正業に就くためのビザがどうしても欲しい。

ロキタがビザを取ったあかつきに就きたいあこがれの職業が家政婦というのがなんとも物悲しい。

家政婦になって,定収入を得られれば,トリとアパートで暮らせる。

そう願う2人だが,合法にビザを手に入れることは叶わず,偽造ビザを手に入れるために危険な仕事に手を染めざるを得ないロキタ……。

少女であるがゆえの危険,幼いがゆえの不自由,時には彼らの敵にまでなる法の網……ミステリー仕立ての展開に我々は固唾を飲んで彼らの幸せを見守るしかない。

カンヌ映画祭の常連,常勝のダルデンヌ兄弟。

はっきり言ってどんなキャステイングだってお望み次第のはず(本作もカンヌ国際映画祭で第75回記念賞を受賞)。

にもかかわらず,演技初挑戦の主役2人の起用によるリアリティとそのみずみずしさ。彼らの褐色の肌のなんと美しいことか。

ダルデンヌ兄弟デフォルトのBGMなし……とはいえ,カラオケで2人が歌うのが,シルヴィ・バルタン『恋のショック』(si je chante)!! トリが眠る時にロキタに歌ってとせがむアフリカの子守唄にはなぜか懐かしさを感じてしまう。

そして,これでもかと言わんばかりに究極なまでにそぎ落とされた編集の見事なこと。

ハリウッド大作が秀吉の絢爛豪華華美加飾とするならば,ダルデンヌ兄弟は利休も真っ青のわびさびの世界か?

前述のように,ダルデンヌ作品で初めて、怒りまでをもにじませなが見るもののキリキリと締め付けてくる本作。

確かに,ある知人の映画評論家は,これまでのダルデンヌ兄弟にはない,救いようのないのが切なすぎると筆者にぼやいた。

いやいや待てよ。

怒涛の展開の後のラストシーン。

筆者はそこに一縷の希望・救いを感じた。

2023年3月31日(金)より全国順次ロードショー。

映画に教えられる現実と,映画で与えられる希望。

スリリングで無駄が微塵もない89分をぜひスクリーンで!

公式サイト:https://bitters.co.jp/tori_lokita/

推薦者
小林美也子

Kobayashi miyako

教育&映画・演劇プロデューサー

漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画・舞台制作にも関わる。