心と体,性と愛の微妙な成長スピードのズレと,性自認への戸惑いも伴った歪な季節・思春期……。
「おかえりアリス」(1)<既刊6巻> |
亀川洋平,室田慧,三谷結衣──幼馴染の中学1年生。
引っ込み思案で凡庸な洋平と早熟な慧は大の仲良しで,そこに絡む美少女の結衣。洋平は結衣に密かな思いを寄せるも,言い出せないでいた。
そんな洋平に,慧はマスターベーションのコツを教え,洋平は結衣を思い浮かべながら初めての射精を経験する。
しかし,ルックス・勉強・スポーツどれを取っても遜色ない慧に結衣が告白している場面を目撃した洋平は,以降,仲がよかったはずの慧と距離をとるようになり,疎遠なまま,慧は転校してしまう。
やがて地元の高校に進学した洋平は,結衣と同じクラスになる。
中学以来悶々とした日々を過ごしてきた洋平は,こんどこそ結衣に告白し,リアルに付き合えることを期待する。
そして,クラスメートには転校先から戻ってきた慧がいたのだ。
しかも,2年半ぶりに再会した慧は女装して別人のようになっていた。
「男を降りた」と言い放って全校生徒が注目するほどの美少女になった慧は,洋平に接近してきて困惑させる。
この時点で(うすうす感じさせられてはいたが),読者は,慧が心を寄せる相手はずっと洋平であることに気づく。
慧は「男を降りたが,女になりたいわけではない」と言い放ちながらも,相変わらず洋平にセクシュアルなアプローチをしつつも,洋平への恋心をまっすぐにぶつけてくる。
洋平もそんな慧の態度に戸惑いながらも,徐々に惹かれていくようになる。
他方,結衣は初恋の相手である慧への想いを断ち切れないでいるが,慧が自分を振り向いてくれないことへの混乱の矛先として,洋平と性的関係をもつようになる。
結衣の巧みな誘惑に戸惑いながらも,洋平は結衣との関係に溺れて行く。
慧のまっすぐな気持ちを思い知らされた洋平は,結衣とのセックスに抗えない自分を激しく嫌悪し,ついには(映画『博士と狂人』でショーン・ペン演ずるマイナーのごとく)自分の男を壊そうとする……
ひよこは何とも愛らしい。
成鳥は凛々しくも美しい。
しかし
成長途中の雛鳥は歪で脆い。
思春期の心と体,性と愛のバランスの悪さ・居心地の悪さ。
性自認の問題も絡めながらも,何とも歪な時代を哲学的に掘り下げているのが『おかえりアリス』だ。
コミックス6巻までが刊行で,現在,月間マガジンで連載中。
期間限定で1巻は無料配信中なので是非お試しを。
推薦者 Kobayashi miyako |
教育&映画・演劇プロデューサー 漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画・舞台制作にも関わる。 |