ヤクザmeets中学生go toカラオケ─ありえない出逢いから,とんでもない青春物語が⁉︎─
「カラオケ行こ!」 |
和山やま先生の,「このマンガがすごい!2021」オンナ編第5位,マンガ大賞2021第3位をはじめ,数々のマンガ賞にランクインを果たし,累計55万部のヒットを飛ばしている人気漫画が映画化された。
土砂降りの雨の中,傘も差さない男の後ろ姿。ダークスーツの上着を片手に白いシャツはみるみる水に浸り,彼の背中全面にある彫り物が浮かび上がる。
あきらかにヤクザものだ!
彼は濡れるタバコをイライラと吸っている。
そこは公民館のホール前。美しい合唱の声が聞こえてくる。
やがて,一人の中学生が出てくる。
中学生の前に立ちはだかるヤクザ。不審げな表情で中学生は前に進もうとするが,あくまでもヤクザがたちはだかる。そのヤクザが一言。
「カラオケ行こ!」
映画開始10分ほどで,あ~,この映画ハズレかも……と正直筆者は思った。
ところが,漫画原作らしい(?)ムチャな設定に,いや,だからこそ,どんどん引き込まれていった。
ヤクザ・成田狂児(綾野剛)は悩んでいたのだ。
組長(北村一輝)主催の恐怖のカラオケ大会で最下位になると,組長直々にとてつもなく下手なタトゥーを彫られてしまう。このままでは自分に組長の魔の手が刻まれるかもしれない。絶対に歌唱力を上げなければならない。だけどどうすればいいんだ!!
中学生・岡聡実(齋藤潤)は悩んでいたのだ。
全国大会常勝の強豪中学合唱部部長なのに,部活最後の大会を前に変声期に差し掛かり以前のようなソプラノの美声が出せなくなってしまった。部活も休みがちで,「歌う」ことに対するモチベーションはだだ下がり。でも大会は近づく。一体どうすればいいんだ!!
舞台は大阪南部のとある街。
「歌うまなるコツ,教えてくれへん?カラオケ行こ!」と,ヤクザの狂児に歌のコーチングを頼まれ,恐怖しかないが,しぶしぶ特訓に付き合うようになった聡実。とはいえ,真面目な(真面目だけが取り柄?)の聡実はズバズバとダメ出しを浴びせてしまう。
そんなコーチぶりが気に入られ,逃げようとする聡実の行く先々で狂児は待ち伏せし,挙げ句の果てに組の仲間のコーチまで頼んでくる始末。
次第に狂児の真摯な姿勢に心を動かされ,「狂児に合う曲は?」「どう歌えば伸びるのか?」と研究するようになり,いつしか放課後のカラオケ授業は日課となる。次第に二人の間には奇妙な友情と絆が生まれてくる。
奇しくもカラオケ大会と合唱コンクールが同日開催となってしまう。
しかし,本番当日,大(?)事件が勃発!
果たして聡実は中学生活最後の大会を有終の美で飾れるのか? そして狂児はカラオケ大会で最下位を免れとんでもない刺青を回避できるのか!?
ややネタバレになるが,劇的な出来事は起きない。
ヤクザと中学生がウロウロして,変声期を迎えた中学生が少し成長して終わるだけだ(身もふたもない言い方だが)。漫画であれば,絵柄のもたらすオフビート感や抜け感で面白くなる。
だけど,生身の人間が登場人物を演じる映画は違う。山下監督のチャレンジはとんでもないものだと思う。
漫画の世界だと笑えて感動できるギリギリまで原作の良さに寄り添い,だけど初主役の齋藤潤はもとより,綾野剛たちの生身の人間である役者の持ち味を最大限に生かし,笑えてちょっぴり泣ける,青春の一ページを我々に魅せてくれる。
スマホは出てくるが,時間の流れや人々のゆとりのようなものはレトロだ。
今なら,「反社と中学生が友人付き合いするなんてとんでもない」とか,「反社と付き合い続けていると主人公の進路に差し障りがある」との言説が出てきそうだ。
でも,誰も何も抵抗することなく二人の友情は育つ。ある種のファンタジーがそこにはある。
だからこそ,胸を打つ。
筆者はラスト近くで思わず泣けてきた。
柳島克己のカメラワーク,とりわけピント合わせの妙味が,創り手の思いと狂児・聡実の心情を,観るものの心の中にいつの間にか忍び込ませてくる。
2024年1月12日(金)より全国公開
公式サイト https://movies.kadokawa.co.jp/karaokeiko/
推薦者 Kobayashi miyako |
教育&映画・演劇プロデューサー 漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画・舞台制作にも関わる。 |