貧乏もネタとギャグになる――若いから,じゃない。気概と情熱,そして純情。
「高円寺純情貧乏」(1) |
筆者10代後半,N.Y.留学資金を貯めるべく1日20時間くらい働いていた頃,住んでいたアパートが木造・四畳半一間・風呂なし共同トイレの安アパートだった。
それなりにバイトで稼げるからと,バストイレ付きの部屋を探してみたものの,不動産屋のお兄さんに「そんな贅沢せんとき。銭湯とコインランドリー激近で,大家さんめっちゃ良い人やから,ここにしとき」と,半ば強制的に借りることにした部屋だった。
今から思えば,家賃が高い方が手数料収入も多くなるのに,頑強に安アパートを勧めてくれたなんて。いい大人に助けられたなぁ。
今回ご紹介するのは,中央線沿線のサブカルな街,高円寺にあるアパートで貧乏暮らしをする3人の女子のコメディ。
彼女たちの最高位のプライオリティは家賃。風呂なし共同トイレは当然のことながら,プライバシーもほぼゼロ。
演劇をやりたい一心で上京した春森。
引っ越し早々に出会ったお隣さん,辺見さんの第一声が
「すごいうんこが出てしまって写真みる?」
①うんこ
②写真見せようとする
③タメ口
の3発にノックアウト寸前。
春森が断固拒絶(写真を見るのを)すると
「じゃあうんこ見ない代わりに部屋見せて」
と訳のわからない交渉材料にされる。
グロ内臓系ゲームばかり作るクリエイター志望の辺見の住む部屋にはドアがなく,廊下にある窓から出入りしている。
そこへ激ヤバな漫画を描いてはボツになってばかりの漫画家志望のナイトーさんが登場。
辺見さんの部屋で春森の歓迎会らしき宴会が始まるが,ツマミは“どんぐり”?!
酔って窓から出入りしてトイレに行くのは危険だからと“おむつ”を勧められ,しかもその効用を理路整然と語るナイトーさん。
入団するはずだった劇団が解散して寄る辺ない思いの春森,同人ゲーム即売会で自作ゲーム信じられないほど売れない辺見,編集者を納得させてしまうほど雄弁ながらも描く漫画はクソなナイトー。
そんな定職に就かず(就けず?)夢を追う3人の姿を描きつつも,1食40円のレトルトカレーを分け合い,飲み代を節約しようと(そもそも飲まなきゃいいのだが)自作したビールもドブ川の味しかせず,自殺未遂者を助けた謝礼に月一で飯を奢らせる……といった,ありえないようなぶっ飛んだキャラと設定に大爆笑し,繰り返し読んでも爆笑。
だけど,ど~してもリアリティを感じざるをえない貧乏っぷりには,どこかしら懐かしさを感じる。
そして,どこまでも,どこまでもポジティブな辺見とナイトーの生き様には元気がもらえる。
電子書籍の表紙には「1」とあるものの,2巻の予定は未定らしいのが残念。
推薦者 Kobayashi miyako |
教育&映画・演劇プロデューサー 漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画・舞台制作にも関わる。 |
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