今更だけど――「好きなこと」か「得意なこと」か?――どちらが幸せになれるのか?
「無駄な才能」 |
コミック・デイズ(講談社のサブスク)で出逢った伊藤拓登氏の処女作。
コミック・デイズで読んだのは,『鍵がない』(【モーニング&イブニング月例賞2022年3月期】佳作受賞作品)。
『鍵がない』も一話完結もので,深夜帰宅したら,家の鍵を入れた財布が見当たらない社畜青年の一夜の物語。良くできた短編映画を観たようで,強烈に印象に残り,ネットでたどり着いたのが本作だ。
遺伝子検査技術が飛躍的に発達し,今や髪の毛を検査機関に送るだけで数日後には遺伝子情報を詳細に知ることができる。
その結果,遺伝子情報を参考にして進学や就職を決める人々がいる。
そんな近未来のお話。なんか,絶妙に説得力のある設定だ。
建築事務所を立ち上げてわずか5年の永田さん。
がらっぱちで,言葉使いもマナーもなってないが,建築の才能は底なし。大規模プロジェクトのコンペ総なめだ。
彼女はかつてシンガーソングライターとしてライブ活動をやっていたが,クソな曲しか作れず,人生に絶望。ヤケクソで受けた遺伝子検査で,音楽適性はクソだけど,建築の才能があると判断されて今に至る。
「好きなことよりも,得意なことを職業に」が見事にハマった彼女の人生はとんとん拍子に爆進中。
そんな永田さんの事務所に勤める若き助手の須賀さん。
彼女は,クソほど頑張るし,絶対落ち込まないし,ムードメーカーだし精神的には最強。永田さんとしては,須賀さんを可愛く思うが,建築センスが絶望的……。
親心から,「建築やめろ。遺伝子検査受けて他の道でその根性を活かせ」とアドバイスするも,須賀さんは「私わぁ,建築やめませんよ」と明るく答え,一考だにしない。
しかし,その1ヶ月後,とうとう須賀さんは事務所を解雇される。
とはいえ,須賀さんの先行きが心配な永田さん。
こっそり須賀さんになりすまして遺伝子検査を受けてみると,彼女には抜群の音楽適正があるとの検査結果が!
なんとも皮肉な運命?を感じつつも,検査結果を告げに来た永田さんに,高校生の時にすでに遺伝子検査を受けて音楽の才能があることは知っていたし,高校時代に組んでいたバンドは超人気だったと,さらっと語る須賀さん。
なら,なんで音楽やらないんだ?
私があんなに欲しかった才能を持っているくせに,なんで?????
須賀さんの回答は?
永田さんの人生は?
処女作だけあって(?),画力に荒いところはあるし,永田さんの人生やキャラの掘り下げももうちょい欲しいところではある。
だけど,欲張ることなく絞ったテーマ設定が功を奏しているし,アクションでキャラクターを表現する(物語を造る上での鉄則だ)才能に長けた作家だと思う。
もっと作品を読ませて欲しい。
本作『無駄な才能』は,クリエイターとマンガ編集者のマッチング型マンガ投稿サイト「DAYS NEO(デイズネオ)」にて掲載中。
才能の萌芽を是非,その目でお確かめを。
「無駄な才能」
https://daysneo.com/works/38ec67977d7106a376cc1d030cdc1655.html
DAYS NEO(デイズネオ)
推薦者 Kobayashi miyako |
教育&映画・演劇プロデューサー 漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画・舞台制作にも関わる。 |