「恋じゃねえから」渡辺ペコ

思春期の性愛に,「それは恋じゃねえから」と伝え,深く残る痛みと傷を癒すのは誰?

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「恋じゃねえから」(1)<既刊4巻>
渡辺ペコ/講談社

累計135万部を突破し,ドラマ化もされた『1122(いいふうふ)』の渡辺ペコ氏の新作。

モーニング・ツーで連載開始から話題沸騰中の創作と性加害をめぐる問題作。

中学時代,ゴリラとあだ名され男子に揶揄される茜は,美少女で聡明だが,どこか陰のある転校生の紫(ゆかり)と,学習塾で仲良くなる。

だが,紫と塾講師・今井の関係を知った茜は自身の容姿に対するコンプレックスと相まって気後れし,紫と距離を置くようになってしまう。

それから26年。

40歳の茜は,同僚との結婚を機に退職し,中学生の娘の母としてまずまず幸せ……とおもいきや,軽度のアル中気味なほど心は荒んでいる。

ある日,塾教室の先生・今井が彫刻家となり,彼が発表した「少女像」が14歳の頃の紫によく似ていたことから,茜は紫と再会する。

エリート一家の両親の期待に答えられなかった紫は,福岡で整体師としてひっそり生きていた。

紫と今井の2人だけの秘密だったはずの14歳の紫の裸の写真。

今井はそれを彫刻の形で晒したのだった。

自分の身体を無断で晒され傷ついた紫は,像の取り下げを求めるが,今井は「創作」の一言で拒絶する。

ここにおいて,14歳の少女が恋だと思っていたのは,21歳の男による身勝手な姓加害だったことを茜や紫,そして読者に知らしめる。

今度こそ,紫を一人にしないと硬く誓う茜は,友として何ができるのか──。

仕事を辞めて家庭に入った茜を理解示さない元同僚の夫。

超エリートで利己的で家庭を一切顧みない紫の父と父に従う母。

芸術至上主義を掲げ,茜と紫から今井を守ろうとする今井の妻。

今井を慕い「少女像」に心惹かれる女子中学生。

どれだけ声をあげても届かない痛みと悲しみと怒り……。

紫と茜はついに,ギャラリーに展示されている「少女像」をハンマーで叩き壊す。

あっぱれと,ある種の清々しさを感じざるを得ないが,ここで物語は終わらない。

民事賠償を迫るギャラリーオーナーと今井の妻。事件を知った近所の冷ややかな目。

どんな被害を受けようが,茜と紫は法的には加害者であり犯罪者となる。

そんな中,幼い今井の子どもが,公衆トイレで幼児性愛者に悪戯される。

もちろん,子どもには何の罪もないのは重々承知だが,どこかで「ザマアミロ」とかすかに思ってしまう闇が読者に芽生えてしまう。

そんな中で救いになるエピソードがふたつ。

茜が中学生の娘に,紫の置かれた状況を丁寧に説明し,お互いに理解しあう。

倒れた母の介護を当然のことだと威張る父に,正面から自分の主張を言えるほど強くなった紫。

物語の中心に据えられているのは,14歳の中学生と21歳の“先生”との性愛。

しかし,本作は茜と紫を取り巻く人間関係を軸に,ルッキズム,性被害,芸樹と尊厳,家庭内のモラハラ,やエデュケーションハラスメント,介護,様々な問題提起を俯瞰したかのように描きつつ,しかもそれをしっかりエンターテイメントに仕上げて読者を惹きつける渡辺ペコ氏の手腕は見事としか言いようがない。

全ての人に読んでほしい。

1巻目はコミック・デイズ(リンク)にて無料配信中。

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