真っ直ぐで純粋で,幼稚だったり,愚かだったり……大人未満の瞬間に垣間見る4つの恋のアソート
「天国」<全1巻> |
「フォビア」(原作・原克玄)「夫のちんぽが入らない」(原作・こだま)「きらめきのがおか」「水色の部屋」「R-中学生」「ウシハル」などで異彩を放つゴトウユキコ先生の「36度」に次ぐ,4作品からなる2冊目の短編集。
『天国までひとっとび』
高校生活最後の夏,幼馴染の晶が交通事故で亡くなった。
下校途中で別れる直前に「死ね!」と軽口を叩いたことを後悔している太朗の前に現れた晶の幽霊。
彼女の未練は,太郎が嫌いな暑苦しい熱血教師・角田への恋心だという。
成仏させるために彼女の想いを先生に伝えてやりたいが,太郎はなぜか素直に協力できない。
やがて,太郎は晶が魅かれた角田先生の魅力に気づき,なぜ彼が晶に協力できなかったのかが明らかになっていく……。
モノクロなのに,高く真っ青な夏空と,その中を浮遊する晶の姿がありありと眼に浮かぶ爽やかな秀作。
『2月14日の思い出』
高校3年生のバレンタインに,目を背けたくなるような恥ずかしくもやりきれない大失恋をした女性が過去を振り返る物語。主人公の行動は,読むものの胸を締め付け,嫌悪感さえも覚える。
ー主人公死ね,気持ち悪い,ただの犯罪者,こういう性暴力をラブコメといわないでほしいーと辛辣な感想も寄せられたそうだ。
それでも作者は,あとがきで「でも私はこういう漫画を描いていたい」と静かに決意を述べている。
4作品の中では最もゴトウユキコ先生らしいというか,氏の真骨頂とも言える作品かも。
『家庭教師』
中学3年生の夏休み。母と2人暮らしの研一は家庭教師に来た穏やかな大学院生と仲良くなる。
しかし,母が彼に性欲を感じていることを知った研一は,母親に理解を示そうとするが,モヤモヤ・イライラを募らせる。
母親の「女」を目の当たりにしたことが,研一のモヤモヤ・イライラの正体と思いきや実は……。
真夏のエロい情事をスルッとかわしつつのラストのどんでん返しに感じる爽快感には格別のものがある。
『迷子犬とわたしたち』
両親の離婚を機に転校してきた貧しい母子家庭の美少女・芽生(メイ)。
やんちゃだけど屈託がなく,男気があってクラスの人気者・伴治(ハンジ)。
医者の息子で私立受験を控える気の弱い,いじめられっ子の塔(トウ)。
家庭環境の全く異なる小6トリオが100万円の懸賞金がついた迷子犬を探す冒険に出る。
親との関係性,教員の不理解,学校での過ごしにくさなんかを交えつつ,やがて,3人はとんでもなく危険で怖い大人のせいで窮地に追い込まれる。
そして悪夢のような一夜が過ぎた先で3人が出逢ったものは……。
話は逸れるが,筆者は大阪のど真ん中,当時日本有数のホテル街と誉れ(?)高き地で幼少時代を過ごした。地元小学校には,様々な大人に囲まれた子どもたちが通っていた。
裕福な政治家である父親,ホテル街で立ちんぼをしている母親,地元神社の神職にある父親,水商売で子どもとヒモの生計を支える母親,日がな一日売れない絵を描くだけの父親……
子どもたちは親の事情や思惑なんてお構いなしに仲良くなったり,喧嘩したりしていた。
やがて中学以降,彼らとはほとんど会うことはなくなっていった――。
本作では,伴治,塔,芽生,3人のその後は描かれていない。
作者はあとがきで,この3人は中学に入ったらほとんど会うことはありません。『スタンド・バイ・ミー』みたいな,「あの子たちと,あの日,あの時だけの輝きみたいなもの」を描きたかったと述べている。
小6,中3,そして高3……人生の節目の出逢いと別れ。
この瞬間にしか抱くことのできない真っ直ぐで純粋,時に幼稚で,時に愚か,でも限りなく愛おしい泡沫(うたかた)のような恋心を描いた4作品。秋の夜長にぜひ。
推薦者 Kobayashi miyako |
教育&映画・演劇プロデューサー 漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画・舞台制作にも関わる。 |