「怪獣になったゲイ」ミナモト カズキ

あああ

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「怪獣になったゲイ」<全1巻>
ミナモト カズキ/KADOKAWA

自分を愛せず,ときに絶望感に打ちのめされる……でも愛さずにはいられない。

ゲイの高校生・貴(たかし)はいじめの標的にされるも,片思いの相手・黒田先生を心の支えに耐え忍んでいた。

若く爽やかで生徒想いの熱血教師の(にみえる)黒田先生。

個室トイレで水浸しになりながらも貴は自分に言い聞かせていた。

「水は乾くし傷は治る。心に負った痛みを癒す方法を知らない……先生は僕の救いだ」

そんな黒田先生が「男が男を好きっつーのは,生理的に厳しいっつうか……お近づきにはなりたくないもんな~」と話しているのを耳にしてしまった貴。

「ぜーんぶぶっこわれた。

なんで僕は大好きな人が大嫌いなゲイなんだ。

ゲイのままならいっそ死んでしまいたい。

死ねないならせめて…ゲイじゃない何かになりたい!!!!」

―――貴は(頭だけ!)「怪獣」になった―――。

貴はこれまで通り学園生活を送る。

ただ,「怪獣」になった貴を周りが畏怖するおかげで,これまで心に秘めていた本音を吐き出せるようになり,学校生活が楽になる。

貴をいじめていたクソ野郎・成瀬にも,片思いの黒田先生にも,ズバズバと本質を突いた言葉を発していくのが痛快ながらも物悲しく,読むものの胸にも突き刺さる。

貴が「怪獣」になる前からいじめにあっていたことをマジで知らなかったと謝る黒田先生。

「先生は見ないフリをするような大人じゃない。

本当に見えていない大人ですもんね」 こう言い放ちながらも,貴は,先生のそういう能天気なところに自分は救われて…好きになったんだと自覚する。

他方で,こんな衝撃的なことを言われた黒田先生。

変わるか? いやいや,人間てのはそうそう簡単には変わらない(笑)。

「生徒には慕われているし,それは彼らをちゃんと見てるからだ」と納得して終わる。

「怪獣」になったことで,貴は強く(邪悪にも)なっていくが,繰り返すようだが,人間はそうそう簡単には変われない。

貴は元に戻るどころか,「怪獣」化は更に悪化する!!

高校生が「怪獣」になったなら,世間の好奇の的になったり,研究対象になったりは想像に難くない。

世界的権威のドクター(いじめっ子の成瀬の父)に海外の事例を紹介されたり,若干SFちっくな雰囲気もかもしつつ,そこんところはギリ不自然にならない程度に回収したうえで物語は軽快に進む。

成瀬の父が紹介してくれた海外事例の顛末も,胸を打つものがある。

タイトルには「ゲイ」とはあるが,BLでもなければLGBT啓蒙作品でもない。

自分を認めることや,自分を愛すること,そして自分と違う人間を受け入れること……

今,世界で起きている様々な偏見,差別的な価値観,ハラスメントをどう受け取り・理解すればいいのかのヒントまで教えてくれる,なんども読み返したくなる一冊。

最後の最後のどんでん返しからは作者の執念のようなものを感じられて圧巻。

推薦者
小林美也子

Kobayashi miyako

教育&映画・演劇プロデューサー

漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画・舞台制作にも関わる。