「8人の女たち」「しあわせの雨傘」に続く，女性の行き方を魅力的に探求した3部作の最終章
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原題：Madeleine |
1935年。売れない新人女優マドレーヌ。
有名プロデューサーから役と引き換えに愛人契約を要求されたのを突き飛ばして帰宅すると，大家が滞納続きの家賃を払えと迫ってくる。
ルームメイトのポーリーヌもこれまた新人の貧乏弁護士で2人の経済状況は万事休す。しかも，マドレーヌの恋人アンドレは一流企業の御曹司にもかかわらず自由になる金がない。
父の勧める富豪令嬢と結婚して，マドレーヌを愛人として妻の財産で関係を続けていくというとんでもない計画を嬉々として提案してくる。
最低最悪の状況の中，あのプロデューサーが自宅で射殺死体となって発見され，なんとマドレーヌが容疑者に！！
弁護士に就任したポーリーヌは，「男に襲われた身持ちのいい女性が名誉と貞操を守るために反撃」という筋書きを提案。
世間の大注目を浴びる法廷で，「腐敗した社会では女は自分で身を守るしかない」と，ポーリーヌが書き上げた感動的なスピーチを語ったマドレーヌはみごと「無罪」を勝ち取る。
と，ここまでは『女房の殺し方教えます』（1964年リチャード・クワイン監督）よろしく，荒唐無稽（？）な法廷劇かと思いきや，ここから物語は大きく転換する。
判決の翌日からマドレーヌのもとには映画や舞台のオファーが殺到し，ポーリーヌも人気弁護士となり，ふたりは豪邸で贅沢な生活を送るようになる。
そんな二人の前に魔女のような風貌の女，オデットが現れる。
サイレント時代に一斉を風靡したが，今や落ち目のかつての大女優だ。
オデットは，自分こそがプロデューサー殺しの真犯人で，マドレーヌたちが手にした富も名声も自分のものだと言い張り，彼女たちを震撼とさせる。
果たして，「殺人犯の座」（？！）を巡り，女たちの権謀術数の駆け引きが始まる―――
1930年代。
女性には選挙権も口座を持つ権利さえ許されず，家父長制が幅を聞かせていた時代。一般女性の選択肢は，マドレーヌの恋人が提案したように，正妻になるか愛人になるか。
オゾンは，一見時代遅れと感じさせる素材を巧み利用しながら，ハリウッドの「＃MeToo」をはじめとしたフェミニズムをフランスらしく，シニカルかつコミカルな映画に仕上げている。
能天気で自由奔放な女優マドレーヌ（ブロンド），聡明でクールな弁護士ポーリーヌ（ブルネット）。
ブロンドvsブルネットといった女性2人が主軸となる映像に置ける典型的なビジュアル。それは，片や女優，片や弁護士として（正妻でも愛人でもなく），女性の自由と自立と未来を切り拓く勇者の姿を体現している。
そして彼女たちより，ひと世代前の女優オデットは，彼女たちの行く手を阻む悪魔（？）ように見えて，実は彼女たちの先駆けでもある。
1930年代アール・デコを再現した美術と撮影は，単なる懐古趣味に堕することなく，今の時代にも通じる世界観を見事に表現している。
そして，ため息の漏れるような各キャラクターに命を吹き込む衣装デザイン。中でも，サイレント時代の大女優オデットの衣装は，1900年代の舞台女優サラ・ベルナールをベースにしているという。
演劇と映画の端境・サイレント時代の大仰な芝居を演じ続ける彼女のキャラクターにぴったりな緑，ワインレッド，黒といった衣装がイザベル・ユペールの赤い髪と白い肌と見事にマッチしている。
「私がやりました」 (C) 2023 MANDARIN & COMPAGNIE – FOZ – GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA – SCOPE PICTURES – PLAYTIME PRODUCTION
フランソワ・オゾン監督みずから『8人の女たち』『しあわせの雨傘』に続く，女性の行き方を魅力的に探求した3部作の最終章と定義する本作。
女性はかくも美しく逞しい。
男はかくも愚かで他愛なきもの……。
2023年11月3日より全国で公開中
キャスト：ナディア・テレスキウィッツ，レベッカ・マルデール，イザベル・ユペール，ファブリス・ルキーニ，ダニー・ブーン，アンドレ・デュソリエ
撮影：マニュエル・ダコッセ
美術：ジャン・ラバッセ
衣装：パスカリーヌ・シャバンヌ
編集：ロール・ガルデット
音楽：フィリップ・ロンビ
配給：ギャガ
2023年製作／103分／G／フランス
(C) 2023 MANDARIN & COMPAGNIE – FOZ – GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA – SCOPE PICTURES – PLAYTIME PRODUCTION
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推薦者 Kobayashi miyako |
教育＆映画・演劇プロデューサー 漫画と映画で人生を学び，現在は各地で法律を教えつつ映画・舞台制作にも関わる。 |