「酩酊!怪獣酒場」(1) |
ウルトラマンシリーズに登場する怪獣をテーマに,さまざまな仕掛けが楽しめる居酒屋「怪獣酒場」。
川崎駅前を皮切りに大阪・難波のなんばグランド花月内にもオープン,この2店舗の開店を記念した,青木U平さんによるグルメ(?)漫画です。
グルメサイト『みんなのごはん。Powered by ぐるなび』で連載されたものに,コミックオリジナルストーリーを加筆,単行本化されたました。
グルメの後に(?)がつくのは,他の配信漫画と異なりグルメ紹介は皆無に等しいからです。
いつの時代なのか,怪獣・人間が学校でも会社でも普通に交じり合って生活している地球。
「怪獣酒場」は,全国展開しているチェーン店の設定で,漫画の舞台は,東京江古田店。
店には種々様々な種族が来店するが「分け隔てのない対応」がモットー。
チーフのケムールと、バイトのゼットンとダダ、そして新米バイトは人間のうるま寅次郎君(わかりますよね?ウルトラです(笑))。
この4人(?)とお客さんが織りなす人情話。
一話完結で,一話一話はとても短いのに,落語の人情話さながらにホロリとさせるが,最後は必ず落ちが有ります。
チーフの誘拐怪獣ケムールは何でも消す液体を使って,生ごみを処理し,三面怪獣ダダはミクロ化兵器を使って店の備品をミクロ化して整理整頓に貢献……とかつて人類を苦しめた武器で怪獣たちは各人の職務を全うしています。
バイトに入った大学生のうるま君は,人生(怪生?)の先輩である(怪獣だけあって時間軸が何百年と人知を超えていますが)従業員や常連客から人生の深淵を学んで行きます。
ウルトラマンシリーズに登場した怪獣たちが活躍するだけあって,エピソードには昭和のにおいがプンプン漂います。
そして怪獣たちも昭和のあの頃を懐かしみます。
かつて,都会の夏と言えば,「ビアガーデンっしょ」でした。
ビルの屋上は,夏限定の屋外飲み屋に豹変し,会社のメンバーで行けば,下っ端社員(大学生だと後輩)が食券購入(食券なんてあったんですよね〜)に走り,ビールに枝豆やら,熱くないから揚げ,焼き鳥やら,さして上手くもないつまみをぬる〜い風の吹く中,アルミの灰皿が飛ばされそうになるのを抑えつつタバコをふかし……。
そういえば,バドガールっていましたねぇ。超ミニで胸元の開いたピタピタワンピでサービスしてくれる女子が。
と,そんな屋上ビアガーデンもレアな存在になり,空調の聞いたビアホールで冷えたジョッキのビールとグルメなつまみを食し,もちろん禁煙か分煙。
本作の50杯目(本作では1杯目,2杯目……とナンバリングされています)「世界で一番デカい夏」でも,怪獣酒場の常連客,タタラ産業の新人が,ビアガーデン懇親会に対して,「虫は来るし風は強い,こんな飲み方は不衛生,パサパサの料理に気の抜けたビール,こんな非合理なイベントはバカバカしい」と冷めた意見を述べます。
「パスタ」じゃなく,あくまで「スパゲティ」。麺は実はうどん(笑)?種類はミートソースとナポリタンの2択。糖質制限なんて誰も知らない。
15杯目「スモーキン・ビートル」では,常連客のサタンビートルがどんどん追いやられていくタバコ文化を憂えていると,チーフのケムールがナポリタンをすっと出します。
ナポリタンを一口食べたサタンビートルの脳裏に浮かぶ原風景には,かつて一世を風靡したオート三輪(すみません。意味不明な方はググってください),木製のゴミ箱が……。
20杯目「ゼットン伝説〜終わりなき革命〜」では,不良学生だったゼットンの母親が学校に現れ,不良たちに「三角食べ」(70年代に流行った推奨された食べ方。意味不明な方はググってください)を不良たちに徹底させるくだりが描かれています。
ウルトラマンシリーズの各怪獣の特性を研究し,シュールな笑いと随所に効かせた小技,ヘタウマな雰囲気を出した絵柄が絶妙なバランスで組み合わされ,ぐいぐい読ませてくれます。
用語使いと言うかルビの使い方が上手いのです。例を挙げると,
1匹(ヒトリ)
怪獣(ヒト)
怪獣酒場(ウチ)
怪獣(われわれ)
怪獣酒場江古田店(このさかば)
お二匹とも(おふたりとも)
これぞマンガという「文字と絵」の表現物としての真骨頂ではないですか。
コミック1巻のタイトル(本作では「お品書き」とされています)をいくつか挙げますと……
3杯目「How many 怖い顔」
6杯目「黄身といつまでも」
7杯目「いまのキミはカピカピに乾いて」
11杯目「わたしの彼は左カギ」
これら全ての正式な曲のタイトル名とメロディーが浮かべば,貴方は立派な昭和人!
※因みに,11杯目の内容は,『新宿スワン』(和久井健著)のパロディという手の込み様です。
そして,そして,
世界に誇る日本の特撮モノの先駆け,ウルトラマンシリーズ。
核兵器開発,自然破壊,いじめや差別,政府の情報隠蔽etc. 人間社会の愚かさと可能性を実に巧みに描いていた奥の深〜いドラマだったことは,周知の事実ですが,本作ではその辺りも軽くすくいつつ,高尚な笑いネタに落とし込んでいるのはお見事です。
ウルトラマンシリーズの中でも名作の誉れ高く,ファンも多い棲星怪獣ジャミラも常連客として度々登場。宇宙開発の失敗を隠蔽した政府の犠牲となり,人間から怪獣に変貌し復讐の鬼と化したジャミラのエピソードや,火には強いが水に弱い特性をほんわか泣き笑いの物語にして楽しませてくれます。
更に!
1話完結の構成ながら,実は1杯目から最終話の71杯目にかけて若干ミステリーな物語の大きな流れがあり,最後の最後のどんでん返しには少し(?)驚きかされ,かつ笑わせてくれます。
いや,本当に青木U平氏の構成力とギャグのセンスは天才的です。
コミック全4巻で一応の完結はしたもの,現在もwebサイト「みんなのごはん。Powered by ぐるなび」にて『酩酊!怪獣酒場2nd』として2017年4月より第2シーズンが始まり,第2・第4金曜日に更新されています。
ぜひ,コミック読破の上,Webの連載も楽しんでいただきたいです。ウルトラマン世代には懐かしさも相まって楽しめるのはもちろんのこと,ウルトラ怪獣は殆ど知らなくても断然楽しめる極上のエンターティメントです。
巻末にはウルトラシリーズ怪獣の解説もある親切設計なのでご安心を。
推薦者 Kobayashi miyako |
教育&映画プロデューサー 漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画制作にも関わる。 |