「愛してナイト」多田かおる

「愛してナイト」(1)
多田かおる/集英社(フェアベルコミックス CLASSICO

今回はお題が「思い出グルメ」ということで、けっこうグルメ漫画も読んできたと思いますが、ご紹介したいのは、多田かおる先生の『愛してナイト』です。

この漫画をご存知の方はグルメ漫画だったっけ? とお思いかもしれませんが、

私にとってはある料理と切っても切れない思い出があるのです。

私が小学生の頃、休日は日曜日だけで土曜日にも学校がありました。

授業は午前中で終わるので、お昼ご飯は家に帰ってから食べます。

焼きそばとかチャーハンとか、手軽に作れるメニューが多かった気がしますが、

その中でたびたび出てきたものに「お好み焼き」があります。

その「お好み焼き」を知ったのが、『愛してナイト』だったのです。

連載は『別冊マーガレット』で81年からだそうで、

小学生だった私はマンガを買うことを禁止されていたので、おそらく83年のテレビアニメか

アニメ放映記念に『りぼん』で特別連載されたバージョンを見たのだと思います。

(『りぼん』は近所のコが買っているのを読ませてもらっていました)

主人公はお好み焼き屋さん「まんぼう」の一人娘やっこ(八重子)ちゃん。

気立ては良いけれど、割と普通の女の子やっこちゃんが、

ロックバンドでボーカルをやっている剛さんとの恋を実らせられるかどうか、というお話です。

今読み返しても、剛さんのバンド「ビーハイヴ」のステージ衣装などは時代を感じますが、

やっこちゃんに恋する別のメンバーとの間で揺れ動く気持ち、演歌大好きな父の反対、

メジャーになっていく剛さんとのお付き合い、遠距離恋愛、新たなライバルの出現……と、

少女漫画的にときめくポイントが盛りだくさん! ロックスターとの恋も王道ですが、

恋に悩むのは、スターも庶民も同じ。やっこちゃんの気持ちは分かりすぎるほど分かります! 

さらに、この漫画で忘れちゃいけないのが、

剛さんの義理の弟である橋蔵ちゃん、そして飼い猫のジュリアーノのキュートなコンビです。

ジュリアーノのブサかわでツンデレなところがたまらなく可愛いです。

テレビアニメのエンディングで、橋蔵ちゃんが歌うジュリアーノの唄も可愛かったな。

そして、やっこちゃんのお父さんがやっているお好み焼き屋さんに行きたい!

特にお好み焼きの描写が美味しそうだった、というわけではないのですが、

食べたことの無い大阪の料理を味わってみたくてたまらなくなり、

お好み焼きが、ぶた玉が食べたい!と母にせがみ、作ってもらいました。

どうやってレシピを探してくれたのかなーと今となっては母の苦労がしのばれるのですが、

ホットプレートいっぱいに作ったお好み焼きは大きすぎて、真ん中が生焼け、

お好み焼き粉なんて無い時代ですから、生地はたぶん小麦粉だけで粉っぽかったし、

ソースもウチにあったのは中濃ソースで……と、理想とは違うお好み焼きができあがりました。

こんなもんか……と思ったけれど、気を使って「おいしいよ」とか言ったんでしょうね。

それに気をよくした母にとっては、こどもも喜ぶし、たっぷりのキャベツと粉と卵、

ちょっぴりの肉で作れるお好み焼きは作りやすいメニューだったようで、

土曜のお昼にたびたび登場しました。だんだん具のバリエーションも増え、腕をあげていく母……。

今さら「あまり好きじゃない」とは言えず、悩んだこともありました。

結局20歳を過ぎてから、お店で美味しいお好み焼きを食べるまでは

それほど好きな料理ではないと思っていました。

でも、漫画に登場する料理を食べてみたい!と初めて思った漫画が『愛してナイト』です。

読んでみようかなと思った方、まずはやっこちゃんの恋物語をお楽しみください。

その後で、お好み焼きが食べたくなっちゃったら、ぶた玉を食べに行きましょう。

推薦者
中村文

Nakamura aya

ギャラリーカフェオーナー

大磯のギャラリーカフェ「At GALLERY N’CAFE」オーナー。画家・イラストレーターのたかしまてつをアシスタント、DTPデザイナーなどもしながら、趣味で愛猫ナロの姿を撮り続ける自称〈ナログラファー〉。最近増えた猫家族えんにもメロメロ。著書に、ブログ「あすナロにっき」をまとめたフォトエッセイ集『あすナロにっき』『あすナロびより』、幻冬舎の文芸誌「GINGER L。」で連載した猫エッセイ『tサンとナロ』。

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