「高台家の人々」森本梢子

高台家の人々・表紙

「高台家の人々」(1)
森本梢子/集英社(YOU)

『研修医なな子』や『ごくせん』など、作品が多数映像化されている森本梢子さん、

今回ご紹介する『高台家の人々』も2016年に映画化されています。

他の作品も楽しく読みましたが、この作品だけは読む際の注意事項がひとつあります。

カフェや電車などで読むのはやめた方がいい!です。

私も久しぶりに声を出して笑った漫画ですので、急に笑い出すアヤシイ人になりたくなくば…。

何がそんなに面白いのかというと、主人公の木絵ちゃんの頭から溢れ出る妄想です。

地味なOLの木絵ちゃんは、人と話すのが苦手。言いたいことが言えない性格で、

ひとりで過ごすことも多かった小さなころから、妄想癖があります。

その妄想が、なんともバカバカしくて、突飛で楽しいのです。

ハリーポッターのアレっぽいキャラとか、猫のヨシマサとか、ビョーンとか…。

妄想の中のキャラがどれも濃くて、可愛くないし、なかなか毒舌だし、

でもハッとするような良いこと言ったり。

そんな木絵ちゃんが付き合うことになったのは、

年下の青い目のクオーター、NY支社から転勤してきた高台家のご子息!

背が高くて高学歴で、あと何でしたっけ? とにかく女子の憧れ、

いわゆる三高(古い?)であるところの王子様のような光正(みつまさ)君が、

木絵ちゃんの妄想(および人柄)に惚れてしまうのです。

なぜ、光正君が木絵ちゃんの妄想を知っているかというと、彼がテレパスだったから! 

…急に設定が不思議な感じになってきましたが、大丈夫です、ついてきてください!

この作品のすごいところは、木絵ちゃんのぶっ飛んだ妄想とか、

それが見えちゃってツボにハマりまくる光正君とか、ギャク満載の設定なのにもかかわらず、

ストーリー自体はちゃんと少女漫画で、ラブストーリーとして進んでいくのです。

木絵ちゃんと光正君の恋愛を軸にしていますが、

実は、同じくテレパスの光正君の兄弟、茂子ちゃん(妹)と和正君(弟)も

恋愛で悩んでいたり、イギリス貴族のお嬢様だったおばあさま(こちらもテレパス)と

日本人留学生だったおじいさまの恋物語、光正君のご両親の馴れ初め話もあったりして、

ラブ要素のバリエーションもいろいろ楽しめます。

地味な自分と王子様のような彼との身分違いの恋、

ご両親(主に母親)に認めてもらうための修行の日々、

そんな彼女の苦悩やがんばりを読んでいくうちに、

きっと光正君と同ように、彼女の人柄に惚れてしまうことでしょう。

辛いことや嫌なことがあった時、楽しくて可笑しい妄想をすることによって

それを一人で乗り越えられる強さを持っている木絵ちゃんがどんどん愛おしくなります。

テレパスがゆえに人と関わることを拒んでいた光正君たち兄弟は

そんな木絵ちゃんに救われていくのです。

笑いながら読んでいるうちに、気づいたら涙ぐんでいた、

という何とも不思議な漫画、おすすめです。

推薦者
中村文

Nakamura aya

ギャラリーカフェオーナー

大磯のギャラリーカフェ「At GALLERY N’CAFE」オーナー。画家・イラストレーターのたかしまてつをアシスタント、DTPデザイナーなどもしながら、趣味で愛猫ナロの姿を撮り続ける自称〈ナログラファー〉。最近増えた猫家族えんにもメロメロ。著書に、ブログ「あすナロにっき」をまとめたフォトエッセイ集『あすナロにっき』『あすナロびより』、幻冬舎の文芸誌「GINGER L。」で連載した猫エッセイ『tサンとナロ』。

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