「BELIEVE[ビリーヴ]」(1) |
若さとか,肉体とか,美貌とか,巧く歌うとか,文章が上手いとか,絵がきれいとか……
そんな分かりやすい基準でなく,人の心を魅き付けてやまないアーティストがいる。
彼らには「オーラがある」とか「スター性がある」と我々は表現します。
でも,そんな人種(作品)に出逢うと,どこか歪んでたり,屈折したものを感じるのです。
それが故のオーラであり,スター性なのだと思いますが,実際に知人として付き合えば,もちろん彼らには魅了されるのだが,はっきり言ってめんどくさい人も多々います(笑)。
まあ,それは私がむかつくほど凡人であるからなのでしょうが。
本作『BELIEVE』は,たぐいまれな美貌と感のよさに恵まれつつも,恐ろしく屈折したところをもつ少女と,そんな彼女に魅了され,その奔放さに振り回されながらも彼女をスターへと育てようとする敏腕女性マネージェーの物語です。
ライバル女優,先輩タレントの妬み,ハイエナのような芸能記者,薄汚い権力と金……と「芸能モノあるある」のネタはひとまずは揃ってはいますが,ドロドロ模様はあっさりと描かれ,あくまで基本は2人の女性と「彼女たちにとっての仕事とは」のお話です。
何のため,誰のために仕事するのか,仕事の先に夢や希望はあるのか,幸せになれるのか。
答えが有るのかどうかわからない問いを槇村作品では常に問いかけてくれています。
芸能事務所「Gプロ」の敏腕マネージャー・山口依子(37歳)は,ふとしたきっかけで不思議な魅力をもつ美少女・ルカ(23歳)に出逢い,彼女をスカウトする。
ルカは家族の生活費を稼ぐためにGプロに所属することになる。
なんと,ルカは母親に捨てられ,父とは幼くして死に別れ,結婚相手は子供が生まれてすぐに海で死亡。
今は唐津で祖母が娘の面倒をみているという,そのピュアな容貌からは想像もつかない怒濤の人生を送ってきたのだった。
しかし,敏腕マネージャーの依子はルカの可能性を確信し,彼女の売り出しに意欲を燃やします。
業界人から一目も二目も置かれ,人望もあり,それなりの収入もあり,おまけに美人な依子。
にもかかわらず,プライベートは全く不器用で,独身で彼氏なし。
仕事が無ければ空っぽな自分を寂しいと感じつつも,ルカと出逢ったことで新たな目標を見つけた依子はルカのために戦車のように働きます。
誰をもひきつける容貌,感の鋭さ,物おじしない態度,そこに依子の活躍が相まって,ルカはスターダムを着々とのし上がっていく。
ところが,母親に捨てられ,お前のせいで父も結婚相手も死んだと罵られ,祖母からは醜いと言われ続け,はかりしれない孤独と傷を胸に抱いているルカ。
母親に対し,殺したいほどの憎しみを持つ彼女の人との交わり方はどこか歪んでいます。
怖い人間だらけの芸能界で自分を守ってくれるのは依子だけと迫るルカ。
友情とも愛情とも言い難いあやふやな気持ちのまま男と関係を持つルカ。
そんなルカをあれこれ心配する依子をおせっかいだと疎ましく思うルカ。
自分の仕事に自信が持てず「誰かに必要とされたい」と絶えず願うルカ。
ルカに惚れて惚れて惚れぬいている依子は,ルカの一番の理解者であると信じて仕事をしますが,ルカの言動に混乱し,何度となくルカに拒絶され,打ちのめされます。
そんな彼女たちの周りでは様々な人間模様が繰り広げられます。
CMで共演した大女優の日原のぞみに尊敬の念を抱くルカ。しかし彼女こそが「殺したい」ほど憎んでいる母親でした。
高名な高官との性的接待と引き換えに,仕事の便宜を持ちかける代議士。
Gプロや祖母や子供の生活のために承諾するルカは,彼に自分と似た心の空洞を感じ,次第に魅かれていきます。
そして,ルカの身辺を調べ上げ,そのネタで依子を脅し途方もない金を巻き上げようとするハイエナのような芸能記者。
ルカを守るために依子は思い切った作戦に出ます。
人は,とても好きな人が苦境に立った時に何もできないこともあるし,それどころか傷つけることもある。
じゃあ,その人の幸せを遠くから見守るしかないかと言うと,やっぱり傍らで何かせざるを得なくて,もがいて,また傷つけてしまうこともある。
依子とルカ,2人は仕事に希望を見いだせるのでしょうか?仕事が自分を愛し,自信を持つ術(すべ)となるのでしょうか……。
推薦者 Kobayashi miyako |
教育&映画プロデューサー 漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画制作にも関わる。 |