「ちひろのお城」 |
千明初美を知ってますか?
1970年代〜80年頃の「りぼん」で珠玉の読み切りを多く描いた漫画家さんです。
描かれていたのは、きらびやかな世界ではなく、
当時流行っていたアイビーロマンとも少し違う(カテゴリー的には、「アイビーロマン」に分類されてたかも、です。)
普通の少女の、普通の日常です。
当時、私は小学生〜中学生で、そろそろ夢のような世界が嘘に見え始めた頃でした。
クラスメイトにもこんなことを言う子がいました。
「少女漫画は嫌い。だって嘘ばかり書いてあるんだもの。
さえない女の子がどうして素敵な男の子と結ばれるの?
なんで告白したらすぐに両思いなの?
そんなことあり得ないのに」
私はその時「千明初美がいるんだけどな」と思ったものです。
ままならない現実を優しく描いていた千明初美に、嘘ばかりの恋愛ものよりもずっと私は慰められたものです。
この『ちひろのお城』は、復刊ドットコムより刊行されました。
高野文子が作品選びなど編集協力したと言うこの作品集は、40年を経た今読んでも
あの10代前半の頃のしょっぱいような気持ちを思い出させてくれます。
太ってて(ちゃんと太った女の子に描かれてます)みんなから『おたふく」と呼ばれてしまうヒロインや(「涙が出ちゃう」)
自分の心の世界に閉じこもってしまう女の子(表題作「ちひろのお城」)
助産婦として働くお母ちゃんに寂しさを感じながら、お母ちゃんの仕事の素晴らしさを
知っていくヒロイン…(「お二階は診察室」)
どれも暖かな目線と、静かな観察眼で「普通の、どうと言うこともない女の子の少しやるせない日常」が寄り添うように描かれてる。
また、絵柄の可愛らしいことったら!
お部屋にあるちょっとした小物、懐かしい普段着、昭和の家具…。
いかに日常の細々とした物を大切に愛情を持って見ていたか、わかります。
華やかとは言えないかもしれない千明初美作品だけど、忘れられてはいけないと思います。
推薦者 Ogata miki |
漫画家。「おくらのあな」で「負け田負け代」連載中。 |