「デリバリー」usi

〜スーパーデリドラウーマンが魅せてくれる，働くことへの覚悟と潔く生きることのカッコよさ！〜

「デリバリー」(1) usi/芳文社

今回ご紹介するのは，風俗の世界でもあまり正面から描かれることのなかったデリバリーヘルスの世界で生きる人々のお話しです。

作品のタイトル『デリバリー』するのは，ピザやハンバーガーでなく，デリヘル嬢（嬢には「キャスト」とルビが付くそうです）です。

デリバリーヘルス，略して“デリヘル”とは、派遣型のファッションヘルス（出張ヘルスとも）のことで店舗がなく，客のいる自宅やホテルなどにデリヘル嬢を派遣し性的サービスを行うことに特徴があります。

因みに，“ヘルス”は，本番行為がありません（作品中では，本番行為をサービスすると，違法行為になるからと厳に禁じています）。
そして，通常デリヘル嬢の送迎はドライバーが行います。

このデリヘルのドライバー（略して “デリドラ”）の女性，桜坂が本作の主人公です。

スタイル抜群で美貌の桜坂はフリーランスのデリドラで，複数の店を掛け持ちして様々な店のデリヘル嬢を日々送り届ける仕事をしています。

漫画で描かれる職業も，かつてはデザイナー，スチュワーデス（あ，今時はCAですね），女優，はたまたプロスポーツ選手……と華やかな世界を描くのが王道で，その後ネタになる職業はどんどん広がりを見せたものの，キャバ嬢やホスト，スカウトマンなどなど風俗の世界が描かれるようになるとは，隔世の感ありです。
ですが，そんな風俗業界の中でもデリヘルの世界を，しかも裏方であり，この業界の中でも末端といってもデリドラを主人公に描くのは異色中の超異色ではないでしょうか。

夜の世界を描いた作品では，主人公が出世欲にかられ，のし上がって行くサクセスストーリーが通常ですが，本作の主人公の桜坂にはそういった欲が微塵もありません。

デリヘルは，キャバクラやクラブといった直接的な性行為をしない業態よりも，やや後ろめたさがあるものの，本番が無いこと，女性は自由出勤としていることが多いので時間の融通がきくこと，ホテルや客の自宅などでの仕事なので抵抗が少ない……などから，専業の女性の他，主婦や社会人，大学生が気軽に始めることも多いようです。

そのため，物語には様々なバックグランドを持つデリヘル嬢が登場します。

桜坂はそんな彼女たちに寄り添いつつ車で送り迎えするだけでなく，体を張って彼女たちを徹底的に守るかと思えば，強烈な毒舌といたわりの言葉で彼女たちの胸を刺し，時には店にとってふさわしくない嬢や客を冷酷に排除もします。

普段はクールなのに熱い時は熱く，いざと言う時の頼りがいは半端ない。

武道に精通し，ボコボコにされた業界の男は数知れず。
かといって桜坂自身は頼られたがらず，強烈な毒舌といたわりの言葉で彼女たちをきちんと叱る。
他方で，幽霊を真剣に怖がり，ゆるキャラに萌え，シャイな側面も垣間見せる可愛らしさが嬢達にはウケている。
風俗の世界を熟知し，裏の世界にも通じ，風営法はじめとする法規制にも明るく，オーナーや店長たちにも平気で苦言を呈する彼女への信頼は厚く，かといって責任者になることは「分不相応」と頑なに拒む。

会えば絶対惚れてしまいそうなスーパーキャラクターなのです。

「面倒なことには巻き込まれたくない」といいつつ，次から次へとトラブルに巻き込まれ，ある店長からは「お前はトラブルメーカーだな」と笑われますが，ま，そうでないとドラマにはなりませんからね。

デリヘル嬢や彼女にかかわる男，客，店長やオーナー……などなどが生々しく描かれているのに比べ，桜坂のプラーベートが描かれることはありません。人並み外れた才覚がありながらも責任者になることも独立することも拒み，何ゆえに彼女がデリドラかつ複数店掛け持ちというスタンスにこだわるのか？
その謎は，本作を読み進んでいくにつれ，だんだんとわかっていくかも知れません。

どんな仕事も，仕事に対する責任と覚悟が必要で，それがなければ生きる勇気も自信も持てないことにもちょっぴり気づかせてくれる良作です。

もちろん，エロ漫画としてのエッチなザービスショットはお決まりで。

デッサン力とすっきりした絵柄，テンポの良さ，一話完結のショートストーリーの積み重ねで，非常に読みやすく仕上がっています。

しっかりとした取材に裏付けられた業界話に「へ～，ほ～」連発なのも付け加えておきます。