おっさんの,おっさんによる,おっさんのための人情そば屋時代劇!
「そば屋玄庵」(1)<既刊16巻> |
ドラマ,映画の世界では,時代劇の数は激減。
太秦の撮影所でも「科捜研の女」が撮影される今日この頃。
とはいえ,五味康祐,柴田錬三郎,池波正太郎,藤沢周平……を愛読する根強い時代小説ファンはいますし,毎月 1200 円ほどを支払って,時代劇専門チャンネルを愛する時代劇ファンもいらっしゃる。
そして,漫画の世界にも!
コンビニの雑誌コーナーの一角を占める時代劇漫画雑誌,コミックの一群が。
おそらく購読者層は圧倒的におっさん世代。
てか,年齢層高めと想像に難くないのではありますが,どっこい生きてカエル……ならぬ時代劇漫画。
『そば屋玄庵』は,「オール時代劇コミック」をウリにする『コミック乱 TWINS』にて,2008 年から連載が始まり,現在も不定期連載中。
寛政年間(1789 年〜1801 年)を舞台とする一話完結の時代劇漫画で,屋台そばの亭主・牧野玄太郎と相棒の平吉を中心とする人情ものです。
ん?
屋台そば屋の亭主に苗字?
と思われた方もいらっしゃるでしょう。
牧野玄太郎は勘定奉行も確実視されていたほどの超エリートだったが,そばの魅力に取りつかれ,要職を早々と致仕。
息子に家督を譲り,長年牧野家に支える平吉と共に屋台そば屋として第二の人生を歩むことに。
ところが,世間体を慮る家族(息子や義母たち)には屋台そば屋を営んでいることは内緒にしている。
素材にこだわった美味い蕎麦を打ち,人情に厚い彼の元には様々な人間が集まる一方で,面倒ごとも舞い込んで来ます。
剣術の腕前も立ち,聡明で,役所勤め時代の人脈もあって交友関係が広い玄太郎は,舞い込む面倒ごとを解決して行きます。
江戸時代に生きる島耕作が,「専務島耕作」の途中で退職して趣味の世界で活躍する感じでしょうか?
しっかりとしたデッサン力,すっきりした線で描かれる絵柄には万人受けするものがあります。
特に,かどた氏の描く女性は,時代劇というより女性漫画の登場人物のような魅力があります。
一話完結の物語は,とてつもない事件が起きるわけでなく,とんでもない悪人も出て来ません。
極上の蕎麦の実を求めての旅,初孫誕生のために優秀な産婆の悩みを解決したり, 馴染み客の辰巳芸者の恋愛騒動,親友の一人娘の人生相談……
時代こそ違えど, 誰しもが人生で出会いそうなエピソードばかりが散りばめられ,漫画にドキドキワクワクを求める向きには物足りないかもしれません。
でも,だからこそ飽きずに,次の物語を読みたくなる作品で,ロングセラーなのも頷けます。
決して説教くさくなく,ちょっと昔のホームドラマのような温もりと飽きの来なさ,そして美味しいお蕎麦のウンチクが少々。
秋の夜長,コンビニで缶ビールを買うついでに是非。
推薦者 Kobayashi miyako |
教育&映画プロデューサー 漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画制作にも関わる。 |