決して「ご馳走」とは言わないけれど,人生のどこかで必ず出逢い,心の局地にいつもいる王道食たち
「局地的王道食」(1)<全2巻> |
「ちくわぶ」ってお好きですか?
大阪生まれの大阪育ちの筆者は,ほぼ馴染みのない食材でした。
はい。竹輪も麩も好物です。
なので,かなり期待したものの,初めて食した際に「何が悲しぃて,こんなぐにょぐにょしたもんたべなあかんの?」と毒づいたものです(失礼!)。
竹輪のように魚のすり身を使っているでもなく,麩のようにグルテン満載なわけでもないのですから,「騙された!」と。
本作でも,第 1 味(注:1 話でなく,1 味です)の冒頭で,名称のムリ加減が「メロンパンだな」と。
とはいえ,作者の松本英子氏は「大スキちくわぶ」と叫び,おでんネタのちくわぶを「おでんで一等賞」と称え,おでん以外の料理法にチャレンジします……
が,「わざわざちくわぶを使うこともないか」「でもわざわざ作るようなモノじゃないです」「ちくわぶ好きな奴ってパッとしない」とネガティブなコメントは入ります。
大好きだし,活躍の場を広げてやりたいけど,なんとも力不足なちくわぶに悪戦苦闘する姿が微笑ましく, 応援したくなります(ま,それで筆者はもちくわぶを好きにはなれないのですが)。
そう,その筆致たるや,「できの悪い子ほど可愛い」が如く,ちくわぶに対する愛にあふれています。1 味(話でなく味です)一食材のエッセイ漫画。
ちくわぶに始まり,フィンガーチョコ,すあま,ぎゅうひ,アメリカンドッグ,冷凍みかん,そば湯(蕎麦ではありません),大根おろしの汁(大根ではありません),クルトン……。
なんとも地味を通り越して,通常のグルメ漫画だと数コマで触れられる程度?の食材のラインナップではありませんか。
ですが,緻密で可愛い絵柄,愛情深く時には作者の人生を織り交ぜながら語られる 1 味 1 味(話でなく味です)には,思わず引き込まれ,何度も読みたくなります。
とりわけ,「のらぼう菜」(埼玉県の一部とあきる野市界隈でのみ生産され,消費される葉物野菜らしい)に対する思い入れは圧巻で,全 32 味(話でなく味です)のうち,3 味も費やす惚れ込みようには感服です。
次の収穫期にはぜひとも,あきる野市まで出向きたい衝動に駆られました。
表紙絵に見られるピンクのスカーフ?をつけて浮いているなんとも愛らしいキャラは,「モグさん」と呼ばれる作者の同居人のようです。
筆者の推しは,第 15 味(話の間違いでないことは,もうお分かりですよね)「ケチャップスパゲティ」です。
決して,「パスタ」とは呼ぶことはない,洋食屋さんのハンバーグとかエビフライとかの下敷きになってることの多いアレです。
なんと,第 15 味は,邪鬼を足蹴にする四天王像の絵から始まります!
「え〜〜〜!ケチャップスパゲティって餓鬼なの!?」作者は邪鬼ファンのようです。
ちなみに,同モチーフの像には,四天王に抗おうと頑張る邪鬼を描いたものもあります。
スパゲティ(パスタと言いたくない)を炒め,玉ねぎもピーマンも,いわんや肉の一片も入れずに,ケチャップのみで味付けする料理。これって断然主役ですよね。
夜中に突然・俄然食べたくなる背徳の料理の一つです。
だれもが一度は食したことのある,でも地味目の食材にまつわる珠玉のエッセイ。
食欲の秋。
美味しいお酒のお供に是非。
推薦者 Kobayashi miyako |
教育&映画プロデューサー 漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画制作にも関わる。 |