「ヒメゴト〜十九歳の制服〜」峰浪りょう

ヒメゴト〜十九歳の制服〜

「ヒメゴト〜十九歳の制服〜」(1)
峰浪りょう/小学館

〜ボーイッシュ女子+女装男子+完全少女。19歳の蒸し暑い下半身が繰り広げる愛とセックスと友情の物語〜

『溺れる花火』に次ぐ,峰浪りょうの先生の連載作品二作目です。

十代半ばだと,性欲は芽生えども,まだまだ妄想や自己完結(エロ本やエロビデオ,友人とのエロ話とか,はたまた夢精や自慰行為とか)の範疇に留まり,生身のセックスといった現実味を帯びない。

しかし,時と共に,心は揺らぎ,肉体の持つ欲望は生々しく,現実味を帯びていきます。

もちろん個人差はありますが……。

『溺れる花火』では,十代半ばから20代にかけて,著しく変化する性欲と肉体の中で欲望と愛情の危なげバランスの上を歩む男女が描かれています。

15歳の夏,病弱な少女が持つ儚さに特別感を感じた少年は彼女と付き合い始める。

少女は入院生活が長びき,少年とはプラトニックな関係のままでいるが,これは幻想に過ぎなくなってくる。

大学生となった健康な少年は性欲を持てあますようになり,儚げなはずだった少女も生身の女に変化し,ドロドロとした欲と愛の間に溺れ始めていく……。

フィクションですから,もちろん設定は特殊なものの,そこで描かれる,時の移ろいの中で登場人物たちの揺れ動こく心や欲望のあまりのリアルさは衝撃でした。

 
そして,本作『ヒメゴト〜十九歳の制服〜』は,そんなリアルさに加えてジェットコースターのようなアップダウンの激しい展開が加わり,エンタテイメント性に磨きのかかった力作となっています。

東京の大学で出逢った3人の19歳,由樹(ユキ),未果子,佳人(カイト)。

けっこう美人で巨乳なのに,口調も服装も仕草も完全に男子で,まわりからは由樹(ヨシキ)と呼ばれているユキ。

薄く華奢な体つきに清楚な顔立ちと黒いロングヘア,さりげなくハイブランドを可憐に着こなす完全少女の未果子。

人当たりもファッションセンスも良く,大学女子の注目を集める美少年のカイト。

3人はそれぞれが自分の性的欲求を満たすための「制服」と“ヒメゴト”を持っています。

幼いころからボーイッシュで,自分もそれをよしとしていたはずのユキは,次第に成熟していく肉体と性欲をもてあまし,高校,大学進学のたびに女の子らしく変わりたいと思って来ました。

ですが,中学からの幼馴染みの祥(しょう)にまとわりつかれ,「俺たち男同士の友達なんだ」と吹聴され,相変わらずヨシキと呼ばれて女の子になる機会を逃してしまっていることに苛立ちを覚え始めています。

初体験はおろか,キスの経験もないユキが唯一持つ女の子になれる服が高校時代の制服です。

殺風景な一人暮らしの部屋で,高校時代の制服を着た時だけ,自分の性欲を解き放つことができ,妄想と共に自慰行為にふけるユキ。

そんなユキの“ヒメゴト”を知らないカイトは大学でヨシキと呼ばれるユキに苛立ちをおぼえます。素地は可愛いユキが,短くも若く美しい時代を着飾りもせず浪費しているとしか思えないからです。

カイトは性愛の対象は女性ですが,幼いころから美少女に憧れ,ファッションとメイクで美少女の制服をまといつつも,どんどん男らしくなっていく肉体に焦りをつのらせてきているのです。

大学では好青年を装いつつ,複数の年上女性からセックスと引き換えに貢がせた金で少女になるための道具をそろえています。

大学で出逢った完全少女の未果子に憧れ,恋をし,未果子と同じ服を買い揃え,未果子になって東京の街を闊歩する佳人(カイト)。

他方,完全少女の未果子は,大学の同級生たちには,門限があるからと合コンの誘いには乗らず,髪を染めれば親が心配すると深層の令嬢を装いつつも,実は夜な夜な高校生のふりをして男に身体を売ることで生活保護を受けている祖母と自分の生活を支えています。

「おんな」になることを異様に拒絶し,永遠に15歳の美少女でいることにこだわり,かつて憧れたお嬢さん学校の制服を身にまとい,男達を組み敷くことにエクスタシーを感じつつも,15歳でいられることの限界におびえる未果子。

こんな,由樹,佳人,未果子,そして由樹の幼馴染みの祥が絡み合う19歳の日々が描かれます。

女装しているカイトに偶然出逢い,彼の“ヒメゴト”を知るようになったユキはとカイトと「女友達」になります。

女の子らしくなりたいユキにオシャレ指南をするカイトは,はじめてガールズトークができる相手ができたと無邪気にはしゃぎます。

他方で,自分の美意識に一本筋の通ったカイトにユキは次第に魅かれていきますが,彼が恋をしているのは未果子で,女同士の友情を壊したくないため,自分の気持ちを打ち消そうとします。

一方,心の底に「おとこ」への憎悪を抱く未果子は,ユキの中世的な魅力と清潔さに惹かれていきます。

そんなある日,ふとした出来事がきっかけで,ユキとカイトの間で,2人は付き合っているフリをすることになります。

これに対して祥は,由樹のことがずっと好きだったと告白しますが拒絶され,無理やり関係を持とうとしますが失敗します。

ショックと恐怖を覚える由樹に,カイトは女友達として優しく世話を焼きますが恋愛関係になることを避けられ,ユキは淋しさもおぼえます。

他方,未果子は祥からユキを守るために,祥をセックスの虜にすることでユキに近づけさせないように「害虫駆除」します。

やがて,カイトと未果子はお互いの“ヒメゴト”を知るようになるのですが,未果子の底知れぬ闇のようなものに触れたカイトは,これまでの未果子への恋心と憧れが冷めつつも,ユキに未果子や自分たちのような世界に触れさせないように,未果子に寄り添うようになります。

と,ここまでだけで人間関係がドロドロに絡まり,かつ,ジェットコースターのようにドラマが展開されますが,まだまだです。

世界最長ジェットコースターです(たぶん)。

後半にかけて,もっともっと彼らの心の深淵に迫っていくのです。

ちょっとだけ女の子らしくなることに躓いてしまって,恋愛下手になってしまったユキ。

大人の男になることに恐怖を抱きつつも,女装することには覚悟とポリシーを持つカイト。
幼馴染みのユキへの愛情表現に失敗し,失意の底に沈む祥。

いずれも,性愛にこじらせたものがありますが,どこかそれほど深刻というか救いようの無さは感じさせず,この時代に誰もが経験する苦い経験の様にも思わせます。

やがて,年を重ね,いい意味で図太く逞しくなっていくまでの通過点として。

ところが,未果子だけは,どこまでも闇を感じます。ユキもカイトも,両親の愛情を受けて育ってきました。しかし,未果子だけは……。

ラストに向かって,未果子の心の闇の原因が明らかになってきます。そして,そんな時,人はどうやって許され,清められていくのか,生きている限り避けられない19歳を過ぎた先に幸せはあるのか……。
本作は,そんなところまで踏み込んで描き切ってくれていますし,途中のドロドロ感や,切なさに胸が苦しくなりつつも,読後感バツグンです。
ぐいぐい引き込まれるストーリー展開は一気に読んでしまうこと絶対のお勧め作品です!

推薦者
小林美也子

Kobayashi miyako

教育&映画プロデューサー

漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画制作にも関わる。