「ゆうれい談」 山岸凉子

〜美しくなければ怖くはない。山岸凉子サイコホラーの萌芽を見よ。〜

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「ゆうれい談」
山岸凉子/メディアファクトリー/角川書店

今回ご紹介するのは,山岸凉子先生自身,それに漫画家仲間や読者から寄せられた不思議な霊的体験談です。

『ゆうれい談』は,りぼん1973年6月号の付録で,「りぼん競作まんが全集」の第6巻でした。

読者の人気投票で選ばれた“りぼん”掲載漫画家6人による「りぼん競作まんが全集」として、100ページ(表紙共)の別冊ふろくが1973年1月号から6月号まで付いたのです。そのラインナップをご紹介すると,

第1巻『キッス甘いかしょっぱいか』:もりたじゅん
第2巻『ハートに火をつけて』:一条ゆかり
第3巻『天使のような悪魔チャン』:弓月光
第4巻『こいきなレデイ・エル』:のがみけい
第5巻『ねむってキスして』:山本優子
第6巻『ゆうれい談』:山岸涼子

はい。

当時のりぼんの顔,顔,顔……錚々たるメンバーでございます。

今回の趣旨から外れてしまうので,各冊子の内容に言及はしませんが(残念(p_-)),この6人で競い合う中,その 6巻目が『ゆうれい談』です。

「ゆうれいにまつわる体験談集」とは,相当異色な内容です。

当時,オンタイムでこの全集をわくわくしながら毎月読んでいた筆者もやや面食らった覚えがあります。

山岸凉子先生は当時, 71年から始まり,大ブレークしたバレエ漫画『アラベスク』の連載が終わったばかり。

後に『鬼来迎』や『汐の声』などに見られるような,サイコホラーの名手としての片鱗をこの競作まんが全集で読者に紹介したかったのでしょうか?

オムニバス形式で、山岸先生と交流のある漫画家さん達の体験談が綴られて行きます。

「花の24年組」御大の面々が,しかも山岸先生の似顔絵で絢爛豪華に登場します。

竹宮惠子先生,萩尾望都先生,ささやななえ先生、大島弓子先生と!
そして,大和和紀先生も1コマご登場。

山岸先生の自画像は例のコミカルなお顔ですし、山岸先生が執筆されている数々の怖い作品に比べると、恐怖感もさして強くもない? 

怖くない? 怖くないよね? 怖くないはずだよね? で,ページめくると,

「ひえ~~~~~っ!」と背筋のこるようなコマがっ!

この頃から,恐怖を描く際にはごくごくシンプルな線で(『アラベスク①』のまだまだキラキラした絵柄の時代~『アラベスク②』でシンプルな絵柄へとガラッと変化するのですが~)見るものに異様な恐怖感を与える美しいビジュアルのセンスは秀逸でした。

この手の作品,ネタバレすると怖さ半減なので,詳細は控えますが,いやぁ……怖かったですよ……めちゃくちゃ後悔しましたもん(笑)
なので,今回この原稿を書く上で読み返したかったのっですが,怖くて読み返すことができませんで,記憶をもとに書いております(なので,微妙な点はブレがあるかもしれませんが,筆者の根性の無さに容赦を)。

『ゆうれい談』の中で何を置いても一番怖いのは,山岸先生の体験談です。
顔に手拭いを巻いた幽霊が正座して,どこかを指さしているビジュアルは今でも鮮烈に記憶に残ってて……
もちろん,実際に幽霊に遭遇された山岸先生が一番怖い思いをされているのでして,山岸先生はひたすら「南無阿弥陀仏」と朝まで唱えられます。声だけだと集中できないので、文字もイメージされます。
「南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏……」
こんな時、日本人というか仏教徒(でもないかな?)でよかった、ま、とにもかくにもこの6文字を知っていててよかったと思いました。つくづく。
般若心経でも良いのかもしれませんが(これも漢字ばかりですし)、やや長いし、暗記できてない(汗)。

クリスチャンだと「アーメン」?う〜ん、なんか迫力に欠けあて,幽霊に勝てないような。

あ~~っ!!これ,書かなきゃよかったかも。めちゃくちゃ思い出してしまった……。

「りぼん競作まんが全集」第6巻『ゆうれい談』の冊子は,探せばいまだに古本屋等で手に入るようです(如何に当時のりぼんが売れていたのかがわかります)。

ですが,コミックスとしては,メディアファクトリーと角川書店から,それぞれ同時収録を違えて出版されています。
角川書店から出ているものは,山岸凉子全集17で,他に「あやかしの館」「汐の声」も同時収録されています。
メディアファクトリーから出ているものは,「ゆうれい談」以外も全て体験談の4編が同時収録されています。

その一つである『タイムスリップ』は,比叡山からの帰り道、タクシーがなかなか山から降りられなかったという作者の体験と、それについての考察を描いた示唆に富む興味深い小品です。

いずれにせよ,良質の恐怖を味わえること間違いなし。二度読みが怖くてできなくとも(笑)一読の価値ありの秀作でございます。

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推薦者
小林美也子

Kobayashi miyako

教育&映画プロデューサー

漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画制作にも関わる。