「死と彼女とぼく」川口まどか

〜私が死んだらどんな死者になるのかな…〜

「死と彼女とぼく」(1)
川口まどか/講談社(講談社漫画文庫)

先日、怪談や不思議なお話を集めながら旅をしているという青年に出会いました。

集めてきたお話をいくつか聞かせてもらったお礼にこちらからも…と思ったのですが、

なんと1つもお話できる体験話をもっていなかったことに我ながらビックリしました。

そんなホラー関係に縁のない私のおすすめは、またもや怖くないホラーです、すみません。

今回とりあげた『死と彼女とぼく』は「少女フレンド増刊」「One more Kiss」などに

掲載されたシリーズで、『死と彼女とぼく ゆかり』『死と彼女とぼく めぐる』と続きます。

現在は「ほんとうに怖い童話(ぶんか社)」に場所を移し、

『死と彼女とぼく イキル』が不定期連載中です。

死者が見える少女ゆかりちゃんと、声を聞くことのできる少年優作くんのお話です。

優作くんは死者の姿を見ることもできますが、聞こえるのは心の声だったり、

触るとその人(死者)の体験を見られたりします。動植物とも心で会話できるので、

家で一緒に暮らす猫のミーシャと犬のトシ&ヒロとも対等に付き合っているのが

ちょっとうらやましいですね。

ふたりの両親(主に優作くんの両親)も関わってきて、基本的には死者を救ったり、

死者が原因で起こっているトラブルをふたりが解決する流れです。

たいてい1話完結の話なのですが、『死と彼女とぼく めぐる』までは、

大きな一つのストーリーが展開されていますので、そこまではぜひ続けて読んでほしいです。

読者はふたりが出会う死者を通じて、いろいろな人の人生を垣間見ます。

ただ、彼らが見られる状態になっている死者は、悪意が強いことが多いのです。

そもそも、亡くなってすんなり天国といわれているところへ向かえる人は、

死者となり現世に止まってはいないので、良い死者にはなかなか出会えません。

いえ、出会ってはいるけれど、お話にはなりにくいということなのかもしれません。

良い死者にもたくさん出会っているから、ふたりは死者に優しくできるのでしょうから。

関わってしまった死者のことは、なるべく救いたいと思っているふたり。

見聞きできるとはいえ、お祓いや浄化などの能力は持たない彼らにできるのは、

死者の話を聞いて状況を認識させ、現世にこだわる気持ちを取り除くこと。

天国といわれているところへ死者が行けるのを最終目標にがんばります。

ふたりとも良い子なのですが、特にゆかりちゃんが健気で献身的です。

悪態ばかりついていた死者も、彼女に癒されて最後は笑顔で消えていきます。

突然の死に自分が死んでしまったことが分からないままの死者に寄り添い、

取り乱す死者に冷静に接していたと思えば、彼らの無念さに一緒に涙する、

そんな「受け止める力」を持つ彼女がとてもかっこいいのです。

人には死による別れがあります。それは突然のことでも心の準備があっても、

別れにはいつも大きな悲しみが付いてきます。

ゆかりちゃんと優作くんには、それに加えて死者との別れがあります。

心が穏やかになった死者が天国にむかうこと、それは嬉しくも寂しいことです。

だから、ふたりはいつでも真剣に人とも死者とも向き合います。

それが最後になるかもしれないことを知っているから。

「自分がどう生きてきたか」は死んだ時の自分の姿でわかってしまいます。

自分はちゃんと生きられているかな、って不安になりますが、

ふたりが教えてくれたように、自分の行いはいつでも、

死んだ後でも改められるので、それまではしっかり生きたいなと思います。

それでも悪い死者になってしまったら、ゆかりちゃんに会いたいなぁ。

会って癒してもらいたい。いやいや、人頼みはいけないですね、でも会いたいなぁ。

死を通して生きるとは何か?を描いている良作、オススメです。

推薦者
中村文

Nakamura aya

ギャラリーカフェオーナー

大磯のギャラリーカフェ「At GALLERY N’CAFE」オーナー。画家・イラストレーターのたかしまてつをアシスタント、DTPデザイナーなどもしながら、趣味で愛猫ナロの姿を撮り続ける自称〈ナログラファー〉。最近増えた猫家族えんにもメロメロ。著書に、ブログ「あすナロにっき」をまとめたフォトエッセイ集『あすナロにっき』『あすナロびより』、幻冬舎の文芸誌「GINGER L。」で連載した猫エッセイ『tサンとナロ』。