「ロッタレイン」 松本 剛

〜甘やかで激しく,ヒリヒリと胸に刺さり,読み進むのを躊躇させる恋愛物語〜

ロッタレイン_icon

「ロッタレイン」(1)
松本 剛/小学館

長岡市は年間降水量が非常に多い町です。
もちろん,冬には雪になるのですが,夏には雨がよく降ります。

長岡市に限らず新潟県は雲王国です。

今回ご紹介するのは,そんな「lotta (=lot of) rain」な町,長岡が舞台の恋物語です。

玉井 一(はじめ)30才バス運転手。
母を亡くし,パワハラを受け,そのパワハラ上司に恋人を寝取られ,精神的に追い詰められてバスを暴走させ重傷を負い,新聞沙汰にもなり仕事も失い……人生最低最悪,病院のベッドで悔し涙を流す一。

そんな彼の前に現れたのは,14年前自分と母を捨てて他の女性の元へと出奔した父と,女性の連れ子で13才の美少女・初穂だった。
一の窮地に手を差し伸べたい父は,長岡に彼を連れて帰る。

暑い夏の長岡。 義妹の初穂,初穂の母,初穂の母と父の間にできた8才の異母弟との歪な5人生活が始まる。

とまあ,強烈な人物設定からドラマが始まります。

自分たち一家のことを知る人の多い田舎町で肩身のせまい思いをしながらも,初穂は母を愛し,弟を慈しみ,義父を慕い,必死で家を守ってきました。

そんな彼女は,一に対して敵意をむき出しにし,堰が切れたかのように周りの悪意に対する憎悪を一に対してだけ正直にぶつけます。

聡明で誰よりも大人のようでいて,子供のような脆さを時折むき出しにし,危うい美しさを放つ13才の少女に,30才の男は惹かれ,そして同じ孤独を感じた少女も……

周りの人間は二人の気持ちに気づき始めます。
初穂に恋心を抱く同級生,初穂の義父(一の父),そして初穂を慕う弟。それぞれが,初穂を思い,それぞれが思い切った行動に出ます。

そんな彼らに囲まれた初穂のとった決断は?!

思考回路がどんなに冷静で大人であっても,子どもは大人の都合や思惑に,ブンブン振り回されます。
それでも,子どもでありながらも,どう強く踏ん張って生きていくべきかに考えを巡らせると,本作はとてもとてもリアルな物語です。

推薦者
小林美也子

Kobayashi miyako

教育&映画プロデューサー

漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画制作にも関わる。