「お父さん、チビがいなくなりました」西炯子

〜猫がいなくなったら、夫婦の危機がやってきた?!〜

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「お父さん、チビがいなくなりました」
西炯子/小学館(フラワーコミックスα)

西炯子さんの描くキャラクターはだいたい美男美女だし、歳を取っていてもロマンスグレーというか、とても魅力的なおじさまを描く作家さんなのですが、
今回の主役はちょっと変わっています。
表紙には四頭身くらいの可愛らしい老夫婦が…。

イガグリ頭で太い眉、大きいけれどグルグルっと塗りつぶしたような目のお父さんと、
少々ぽっちゃりで目が線のように細いお母さん。
子供が孫を生んでいるので、おじいさんおばあさん世代の話といっても良いでしょう。

この夫婦と暮らしている「チビ」という黒猫がいなくなる騒動から思わぬ方向に話が展開します。
老夫婦と猫、と聞くとほのぼのしたお話になるのかな、と思ってしまいましたが、ちょっと様子が違うようです。

三人兄妹の末っ子である菜穂子ちゃんが出くるので、主軸は娘の恋愛かな、ともまずは思いました。
仕事のできる女、ゆえに振られる、というキャラクターも西さんのマンガにはよくいるタイプで、そこにつけこむ若い後輩、と恋愛が始まりそう!

なんて思っていたら、いえ、実際にそちらも始まりますが、母が「父と離婚しようと思っている」と衝撃発言。
母が夢中の韓流スターによく似たペット探偵の青年や、昔父が好きだった(かもしれない)未亡人なども現れ、娘はやきもきしつつも見守ることしかできません。

そう、これはやはりお父さんとお母さんの恋愛物語なのです。
若かりし頃のふたりもちょこちょこ出てきて、顔は見知っていたけれど、お見合いで結婚して40年。
ずっと連れ添ってきたからこそ言えること、言えないこと…。

ところで、この、無口なお父さんとよく喋るお母さん、
という図式が、私の両親によく似ています。
昔は、母が何を話しても反応の鈍い父に一緒にイライラしたこともありましたが、家を出て少し客観的に見てみると、母が父の返事も待たずに話したいだけ話している時もあって、気持ちが分かり合えていないならば、お互いさまかもしれないと思い直したものです。

しかし、それはこどもである私の前で見せている姿であって、ふたりで過ごしている時の様子は私には分からないことです。
幸いどちらからも「別れたい」という話は聞いていないので、なんだかんだ分かり合えて仲良くしているのでしょうね。

相手の事を好きで大切に思っている、ということは、相手に伝わっていないのなら、意味がないのです。
口には出さないけれど思っている、が伝わってないならそれは相手にとっては思われていないのと同じことですもんね。

読み終えたら、お父さんたちを見習って、ちょっと言いにくい、
けれども言いたいことを誰かに伝えてみましょうか。
そんな気持ちになるマンガ、オススメです。

推薦者
中村文

Nakamura aya

ギャラリーカフェオーナー

大磯のギャラリーカフェ「At GALLERY N’CAFE」オーナー。画家・イラストレーターのたかしまてつをアシスタント、DTPデザイナーなどもやってます。幻冬舎プラスで連載していた、お店をオープンするまでの連載が電子書籍『お店、はじめました。~40歳未経験のカフェオープン~』になりました。