〜ある日裁判員に選ばれても慌てなくてすむ?読むとクセになる裁判官主役のレアなヒューマンドラマ〜
「イチケイのカラス」(1) |
今回ご紹介する作品は法廷モノです。
ですが,ミステリーでもクライムサスペンスでもなく,しかもドラマに数多ある弁護士主役,次に多い検察官が主役でもなく……裁判官が主役のレアケースです。
確かに,弁護士であれば,法廷での活躍だけでなく,様々な法律問題に挑む場面が多々あるし,自由度高くドラマになりやすい。
検察官は刑事事件におけるオフェンスでこれまた能動的な活躍ぶりがドラマになる。
対して裁判官は,被告人と検察官(刑事裁判です。“被告”とは言いません),被告と原告(民事裁判です。)の間に立って公正中立に当事者双方の攻防を黙って聞き熟慮の結果判決を下す……といったイメージ(世間一般にです)なので,なかなかドラマにはなりにくいのが正直なところでしょう。
ドラマにしたとしても何かクソ真面目で地味ぃ〜〜な感じもします。
本作『イチケイのカラス』は,その裁判官を主人公にしながらも,ペーソスとユーモアに溢れ,しかも弁護士お2人の監修を踏まえリアルさを決して失わない兼ね備えたエンターテイメントに仕上がっているという奇跡のような作品です。
物語は,絵に描いたような堅物生真面目な裁判官の坂間真平(30代)が武蔵野地方裁判所の第一刑事部(イチケイ)の赴任したところから始まります。
裁判官のことをファーストネームで呼ぶ妙に馴れ馴れしい(良く言えばフレンドリー)な裁判所書記官の石倉文太,有罪率99.9%(松潤のドラマで有名になった数字ですね)の刑事裁判において無罪判決の数が驚異的な統括判事(イチケイで一番偉い人)の駒沢義男,恋多きお騒がせ女子の板間の姉,そしてスナック菓子大好きでふんわり小太りな右陪席の裁判官・入間みちお……
といった裁判所には異色な登場人物達に板間が振り回されます。
熱血弁護士,クレプトマニア(窃盗症)の主婦,殺人容疑に対し正当防衛(認められると無罪)を主張する初老の男性,あれこれ悩み議論する裁判員たち(映画『12人の怒れる男』をスーパー軽くしたごとく)などなど,
リアルな裁判所での日常が一話完結で非常にわかりやすく伝えられつつ,坂間,駒沢,そして入間みちお(書記官の石倉は“みちお”と呼びます(笑))の3人それぞれの裁判官としての苦悩を,これまたユーモアたっぷりに描かれます。
中でも,みちおは出色の登場人物。
傍聴マニアの間にファンクラブができるほどの人気者で,飄々とし人を食ったような態度にクソ真面目で青いところのある板間はイライラするのですが,次第に彼の人となりに引き込まれていきます。かつて刑事弁護で名を馳せた有能な弁護士だったみちおが,何故に裁判官になったのか?
そして裁判官という職業を達観しているような不思議な魅力にあふれた駒沢とみちおの関係は?
正直,左陪席(坂間です)とか,右陪席(みちおです)とか,とっつきの悪い専門用語も出てきますし(そもそもイチケイ=第一刑事部ってなにさ,と思われますよね),
裁判の場面になると判決文の吹き出しなんて漫画史上最長?なんてのもありますが,
そんなこともリアルさを深めるための計算され尽くした演出のひとつとして納得し,いつのまにか浅見ワールドに引き込まれてしまいます。
読むとクセになること確実です!
推薦者 Kobayashi miyako |
教育&映画プロデューサー 漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画制作にも関わる。 |