「コハルノオト」藤田麻貴

〜好きな匂い、ありますか?〜

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「コハルノオト」(1)
藤田麻貴/秋田書店(プリンセスコミックス)

道を歩いているとふと香る沈丁花に春の訪れを感じたり、

夕暮れの街を歩いていると漂うカレーの匂いにお腹がぐーっと鳴ったり、

ちょっと香ばしい良い匂いがする猫の肉球の匂いが好き、とか、

普段は意識していないけれど、私たちは色々な匂いに囲まれています。

なぜだかこの人良い匂いがするなーと思ったり、

逆にちょっと苦手な匂いがする人がいたり、

その感じ方がDNAと関係しているという研究もあるそうですね。

なかなか奥が深そうな匂いの世界ですが、もし人の感情が嗅ぎ分けられるとしたらどうしますか?

触れたら人の心がわかる、とか近くの人の心の声が聞こえてしまう、

といういわゆるテレパス能力は、マンガでもよく描かれていますが、「匂い」でというのはちょっと変わっているなと、まずひきつけられました。

とはいえ匂いでわかるのは、喜びや悲しみ、愛情や怒りなど感情の種類だけ、らしいのですが。

そんな不思議な力を持つ人、南方(みなみかた)さんのもとで働くことになった小春ちゃんが今作の主人公です。

何事にもとても一生懸命で真面目なのに、それゆえに周りから疎まれたり、トラブルにも巻き込まれやすく職を転々としていた小春ちゃん。

南方さんは、特異体質ゆえに人付き合いを避けつつも、しかしその能力を活かしてお悩み相談をしているという謎の人物。

同時に、匂いでは感情の種類しかわからないのに、的確な指摘とアドバイスができる南方さんのことを、優れた観察力や洞察力を持つ人一倍繊細で思いやりのある人だと小春ちゃんは理解し、そして惹かれていきます。

一方の南方さんは、自身の不思議な能力を気味悪く思うこともなく、受け入れてくれた小春ちゃんに驚きつつも、また惹かれていきます。

二人の恋模様は遅々として進まずやきもきさせられます。

同じ力を持っていたらしい南方さんの祖父がその力を失った方法があるようで、それが判明するのかも気になるポイントです。

特別な匂いに出会えたら力は消えるらしいのですが…。

ドジで間抜けな私だけど…という少女漫画で見られがちなヒロインが引くほどに、不幸で自己肯定感が異常に低くトラブルにあい続ける小春ちゃん。

正直なところ安易に「わかるー」とは言えないほど、彼女の自己否定は強いです。

でも、それが減り本人のがんばりや南方さんをはじめ周りの人の影響で少しずつ少しずつ成長していくのを歯がゆく見守っていきましょう。

できればお部屋をお気に入りの匂いで満たして、ゆっくり楽しんでいただきたいマンガです。

推薦者
中村文

Nakamura aya

ギャラリーカフェオーナー

大磯のギャラリーカフェ「At GALLERY N’CAFE」オーナー。画家・イラストレーターのたかしまてつをアシスタント、DTPデザイナーなどもやってます。幻冬舎プラスで連載していた、お店をオープンするまでの連載が電子書籍『お店、はじめました。~40歳未経験のカフェオープン~』になりました。