〜高二の初恋+アニオタ+水泳+書道+夏休み+父親探し+新興宗教=漫画と映画で思わず元気2〜
漫画 「子供はわかってあげない」(上) 田島列島/講談社モーニングKC刊 <全2巻> |
映画 「子供はわかってあげない」 上白石萌歌 細田佳央太 監督:沖田修一 脚本:ふじきみつ彦,沖田修一 音楽:牛尾憲輔 企画・製作幹事:アミューズ 配給:日活 |
2015年,数々の漫画賞を受賞した傑作なのでご存知の方も多いでしょうが,今回は漫画と映画化作品の両作品のご紹介と欲張ってみました。 |
先ずは,漫画のご紹介から。
舞台は高校2年生の夏休み前。
水泳部の朔田美波ことサクタさん。
部内一の実力がありながらもフワフワしているので,タルンドル朔田と呼ばれている。でもアニオタ。
書道部の門司(もじ)くん。
字も絵も上手。由緒正しき書道家一家の次男坊。かなり豪華な日本家屋に住むおぼっちゃま。でもアニオタ。
水泳部の練習中,出入り禁止のはずの学校の屋上に,大好きな『魔法左官少女バッファローKOTEKO』(超マニアックなアニメです)の絵を見つけるサクタさん。
屋上に駆けつけ,KOTEKOを書いているもじくんに駆け寄ります。
もじくん「KOTEKO,好きなのか?」
サクタさん「ああ,かなり」
サクタさん一家は,「OK牧場!」的なギャグをちょいちょい入れるお母さん,やんちゃ盛りの弟,アニオタで松本零士ファンのお父さんと,絵に描いたよーなシアワセ家族……
な・の・だ・け・ど,
実はサクタさんの実父は彼女が5歳の頃に生き別れになったきりで,母は一切,実父について話さない。
ところが去年の誕生日に,差出人不明の謎の「お札」が送られてきた頃から,サクタさんの心はザワザワし始めています。
もじくんのお兄ちゃん(今はお姉さんになっています)が探偵だと聞いたサクタさん。
家族が壊れないかを気にしつつも,「前向きに後ろを振り返ろう!」と実の父親探しをお兄ちゃんに依頼することにします。
お兄ちゃんは,女性になったことが原因で門司家とは絶縁状態。渋~いオヤジ・善(ぜん)さんの経営する古書店に居候しながらの便利屋稼業。
調査の結果,なんとサクタさんのお父さんは人の心が読める超能力の持ち主で,新興宗教の教祖だったけど失踪中。
しかも教団内の大金を持ち逃げした容疑までかかっていて,教団幹部もお父さんを捜索中ということまで判明します!
目下お父さんは,海辺にある家で指圧師を手伝いながら生活していることを突き止めてもらったサクタさん。
夏休みになり,サクタさんは家族に嘘をついて旅に出ます。
絡まる人間関係とミステリー感高まる序盤。重くなりそうで盛りだくさんな内容と思いきや,ゆるく優しい絵柄とウィットの効いたセリフまわし,独特のオフビート感,随所に散りばめられたクスリと笑える小ネタとパロディ。
20話・上下巻で完結,すっきり読ませてくれます。
加えて,タイトルとサブタイトルにも垣間見える言葉選びには,天才的なものも。
もちろん,お話の柱となるのは「恋愛」。
サクタさんともじくんの甘酸っぱすぎる初恋はもちろんのこと,もじくんのお兄ちゃんと善さんの絶妙なラブコメ感もいいアジを出しています。
そして,そして,この作品がついに実写映画化されました!!
公開は2020年6月26日予定……ですが,本当~~~に残念ながら,新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言の影響で,微妙に微妙です。
ここでは「どうか,こんなにも素晴らしい作品がスクリーンで皆さんの元に届きますように」との祈りを込めてご紹介したいと思います。
手がけたのは『南極料理人』『横道世之介』など,今や一作一作が注目される沖田修一監督。驚異のロングヒットとなった前作『モリのいる場所』(2018年5月)では,50年以上連れ添ったご夫婦のお話だったのが,一転,高校生の夏物語。
しかも初漫画原作です。
先ず,脚本が上手い!
田島列島先生と沖田監督・ふじきさん(脚本はこのお二人です)の化学反応が大成功です。
沖田監督独特のオフビート感,日常を淡々と遊び御心(ここがめちゃくちゃ楽しい!)たっぷりに描くことで登場人物たちの心持ちを浮き彫りにする,食事と食卓へのこだわり……そんなところが原作との相性抜群なのです。
また,漫画は文字と絵で表現された芸術ですが,そこから生身の人間と時間の流れで表現する芸術を創るにあたって,原作のどこをすくいとり,どこをカットするか。さらにどれくらいのオリジナリティを盛り込むか。
映画化にあたっては,これらのさじ加減にものすごい才能が要求されますが,ここでは才能同士の科学反応の結果,とてつもない新たな感動が生まれています。
「お父さん探し」と「新興宗教」,そして「恋愛」。
基本的なストーリーは,ほぼ原作に沿っているのですが,映画では大胆にカットされた要素が逆に本作を素晴らしい映像作品にしている点でもあります(詳細は是非,映画を観て感じてください!)。
次に,『魔法左官少女バッファローKOTEKO』と朔田一家の良き家族ぶりを見せきる冒頭10分は圧巻です。
この10分で,サクタさんともじくんが惹かれ合う理由,サクタさんが家族に嘘をついて旅に出てしまう理由が全て描かれているのです。
ちなみに,冒頭,いきなりアニメで始まります。
沖田監督は「え?劇場間違った?」と観客が慌てるのを想像して,ほくそ笑んでいるに違いありません。
さらに,音楽が,もう,もう,憎ったらしいほど良いのです。
例えば,サクタさんともじくんが絡むシーンでは,魔性の女カルメンがホセを誘惑するときに歌う「ハバネラ」が,さりげな~く流れるんですよ!「ハバネラ」ですよ!
このセンスには脱帽です。
それに子役達がなんて素敵なのでしょう。
サクタさんの弟,海辺のお父さんの家の隣に住む仁子ちゃん(サクタさんは彼女に泳ぎを教えます),もじくんの書道教室の生徒達……。
どの子もナチュラルに生き生きとしているのです。
正直,沖田監督がこんなにも子どもを撮るのがお見事とは!
さらに,さらに,キャスティングの素晴らしさ!!
©2020「子供はわかってあげない」製作委員会
上白石萌歌さん,細田佳央太さんが,みずみずしい高校2年生の夏を演じきってくださっているのはもちろんなのですが,筆者の推しメンは,三人の大人たちです。
一人目は,千葉雄大さん扮するもじくんのお兄ちゃん(今はお姉さんです)。ひょうひょうとした優しさが,たまりません。
二人目は,お兄ちゃんが居候する古本屋店主の善さん役。高橋源一郎さんって,ハマり過ぎでしょう。
三人目が,サクタさんの実父を演じられた豊川悦司さん。
多分,このキャラクターが,映画で1番オリジナリティが発揮されているのではないでしょうか。
色気を全面封印したこれまでに無いちょっと格好悪い豊川さん,仁子ちゃんが天衣無縫に戯れる様子,父娘の距離を縮めて行く姿,どれもこれも感動的です!
最後に。
本作に登場する大人たちは,皆,子供をわかってくれます。
「大人になった時,自分より若い人にそのお金の分何かしてあげて」と探偵料を無料にしてくれるお兄ちゃん(今はお姉さんです)。
「美波は美波なりに,家族を守ろうとしたんだよね。ありがとう」とサクタさんを抱きしめるお母さん。
大人にわかってもらえて,大人にゆるされた子供は幸せになれます。
自粛警察とか,芸能人が政権批判すると叩かれるとか,なんとか,不寛容さが目立つ今の時代(と,筆者は思っています)。
許すこと・寛容であることの美しさを教えてくれる『子供はわかってあげない』が一人でも多くの元に届くことを願っています。
現時点では,漫画の方がお手に届きやすいかとは思いますが,どちらを先に読んでも観ても,それぞれに感動できる珠玉作品たちです。
* * *
映画「子供はわかってあげない」*公式HP https://agenai-movie.jp
上白石萌歌 細田佳央太 千葉雄大 古舘寛治 / 斉藤由貴 / 豊川悦司
監督:沖田修一
脚本:ふじきみつ彦,沖田修一
音楽:牛尾憲輔
原作:田島列島『子供はわかってあげない』(講談社モーニングKC刊)
企画・製作幹事:アミューズ
配給:日活
制作プロダクション:オフィス・シロウズ
© 2020「子供はわかってあげない」製作委員会
© 田島列島/講談社
推薦者 Kobayashi miyako |
教育&映画プロデューサー 漫画と映画で人生を学び,現在は各地で法律を教えつつ映画制作にも関わる。 |