「ミステリと言う勿れ」田村由美

〜彼のおしゃべりを聞いているだけで楽しいわけです〜

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「ミステリと言う勿れ」(1) <既刊6巻>
田村由美/フラワーコミックス

ちょっと変わったタイトルが目を引く本作品、ミステリというなかれ、とはいえしっかりミステリー作品になっていると思うのですが、如何せん私自身がミステリー経験値が少ない方なので(小説ならホームズ、ドラマならコロンボくらいしか……)本気のミステリーファンからするともしかすると変種になるのかもしれません。
でも、主人公がいろいろ活躍して刑事事件を解決に導いていく、というのは立派なミステリーになっているのではないかなと思います。

主人公の久能(くのう)整(ととのう)くんは、イケメンではないけれど、タレ目で大きめのへの字口が愛らしい天パの大学生です。
殺人事件の参考人として任意取り調べを受けるところから物語が始まるのですが、とにかくこの整くんがよく喋るのです。

本人も我ながら記憶力が良い、と言っているように、あらゆることを見聞きして色々なことを推察していきます。
整くんに「任意で話を聞いている」警察の方々が言葉を拾って、自分なりの見解を話し出します。

例えば、娘が「お父さん臭い」と言い出して悲しんでいる巡査に、
例えば、いっしょに暮らしていた猫が亡くなったばかりの巡査に、
僕はこう思うんですけど、とか僕は常々○○と思ってて、なんて話をとうとうと語ります。言われた人は目から鱗というか憑き物が落ちたようになったりして、読んでいる側からするとみんなそれに救われたように見えます。

整くんの話には小ネタというか「ほほー、そうなんだ!」ってことも多く語られていて、話を聞いているのが楽しくなってきます。

立板に水のようにどんどん持論を展開していくので、漫画なのに文字量が非常に多いです。
ちょっとした小説並みの文字数があるんじゃないかと思います。

頻繁にトラブルに巻き込まれがちなミステリーの主人公らしく、整くんも行く先々でさまざまな問題に巻き込まれます。
バスジャックや遺産相続問題、だいぶ昔のと現在進行形の連続殺人事件……。

とはいえ、いくつかのトラブルにはそれぞれ繋がりがありそうだったり、整くん自身の生い立ちや境遇にも何か謎がありそうな感じです。
改めて読み直したら、整くんの胸に火傷の跡があるようにも見えたり……?!
これから巻が進んでどんどん謎が解けるのが楽しみです。

殺人を始めさまざまな犯罪を謎解いていくミステリー作品なので、人の生死や人生など重い話もあります。
児童虐待のような、子どもの尊厳に関するエピソードも多いです。
でも、整くんのポップな外見と人付き合いは苦手そうなのに誰に対してもフラットに接する感じがとても好ましく、どんどん整くんの話術に引き込まれます。

刑事コロンボの「ウチのかみさんがね~」と言いながらどんどん話を進め、あれよあれよと犯人を追求していく感じがお好きなら、整くんのおしゃべりも楽しめるんじゃないかと思います。
本筋以外のことも喋りまくる整くんのミステリー、おすすめです。

<既刊6巻>

推薦者
中村文

Nakamura aya

ギャラリーカフェオーナー

大磯のギャラリーカフェ「At GALLERY N’CAFE」オーナー。画家・イラストレーターのたかしまてつをアシスタント、DTPデザイナーなどもやってます。幻冬舎プラスで連載していた、お店をオープンするまでの連載が電子書籍『お店、はじめました。~40歳未経験のカフェオープン~』になりました。